目次

はじめに
アウトラインライティングが可能なソフトウェア
表記関係について
第1章 要素を書き出す
1.1 要素の書き出し方
1.2 マインドマップを使う
1.3 マインドマップを使わない
第2章 プロットを作る
2.1 アウトラインを作る
2.2 それぞれの要約を書き込む
2.3 全体を見渡す
第3章 本文の執筆
3.1 1日のうち書ける時間を把握する
3.2 1時間で何文字書けるかを把握する
3.3 書けない時間も活用する
3.4 途中で詰まったら
第4章 進捗管理をする
4.1 全体で何文字書けば完成するかを把握する
4.2 週1で進捗会議
4.3 予備日も忘れずに
第5章 推敲の時間を取る
5.1 全体の流れを再度確認する
5.2 読み直す
第6章 本にする時には
6.1 印刷所を探す
6.2 締切を確認
6.3 スケジュールに反映する
6.4 表紙のデータ作成
6.5 本文データ作成
6.6 入稿
第7章 まとめる力と論理的思考力
7.1 プロジェクト管理(タスク/スケジュールの管理)も身につく
7.2 論理的思考が身につく
7.3 自信がつく
あとがき

はじめに

 みなさま初めまして。Tinanaと申します。

 私は、都内の外資企業で広告コンサルとして働いております。出身は理系ですが別にプログラムは書けませんし、もっぱら企画書を書いたりレポートを書いたり、あとは顧客と会議をしたり社内プロジェクトのリードをしたりする仕事をしています。毎日毎日何らかのレポートを作り、その合間を縫ってプロジェクトのドキュメントを書き、顧客との打ち合わせ資料を作り、提案資料を作っています。

 そして、そのような業務の合間に技術書典という技術書の祭典へ出すための同人誌を執筆したり、小説を執筆してWebに投稿したりしています。

 みなさまはどうでしょう、文章はどのくらい書いていますか。

 報告書、レポート、論文、企画書など、仕事でまとまった量の文章を書く機会がある方は、多いのではないでしょうか。しかし、文書作成が「得意か?」といわれると「苦手」「何から取りかかれば良いのか分からない」「思うように進まない」なんて方も、けっこう多くいらっしゃるのではと思います。

 部下や後輩や友人から、仕事の悩みを聞いていると、「まとまった文の書き方を知りたい」というニーズが案外多いことが分かりました。また、「仕事がめちゃくちゃ忙しいはずのTinanaさんが、いつどんな風に同人誌や小説を書いているのかを知りたい」と頼まれたのもありまして、今回はそれを本にまとめてみようと思います。

 私の仕事では、特に「人を説得する文書や企画書」を最もたくさん、長く書いております。その関係もあって、「技術書典に本を出そう」と思ってから、企画書を書く技術の応用で割とサクサクと1冊書いてしまいました。サクサク書けたあまり、2022年の1年間だけで文章メインの同人誌を3冊も発行しています。短歌を編集しただけなので文章は少ない2冊も含めると、1年で都合5冊も同人誌を出しました。また、今は長篇小説を「小説家になろう」で公開しはじめまして、そちらもだいたい週に3,000〜10,000字ほど更新しています。ちょっと自分でも文章を書くペースがおかしいと思いますが、それは置いておきまして、小説もこの本にまとめる方法と似た手法で物語の内容をまとめています。

 「なぜ書く内容に悩まないの?」「なぜそんなにすらすらと文章を書けるの?」

 と、良く聞かれますが、文書を書くときにはいくつかステップがあります。ですが「まとまった文章がなかなか書けない」とおっしゃる方は、そのステップをすっ飛ばしてしまっているために、詰まってしまっていることが多いなと感じています。そのステップを紐解いたら、もしかしたら他の人ももう少し楽に文書作成が進む方のではないかな、と思ったのが、この本をまとめようと思った理由です。

 今回は、「ある程度長いひとまとまりの文章」を書くときに使える手法をまとめてゆきたいと思います。ひとくちに文章といっても、長さや複雑性はものによって大きく異なりますし、また目的も全然違います。

 技術書典に出す技術書(比較的長い)などにも使えますし、論文、企画書、あるいは小説などにも使えるテクニックだと思います。小説の場合はまた別のテクニックや要素も必要になるのですが、とりあえず「物語の完結」「最後までの執筆」を目指すのであれば使える内容になると思います。

 私がこれまで「文書作りが苦手」という人たちの書き方を見ていて、最も多いなと感じたのが「冒頭から完璧な内容を綺麗に書いていこう」としているケースです。そんな風に書ける人はごく一部の天才しかいないのではないかと思いますが(もしくは文章を書くのにとても慣れている人)、案外この罠にはまって最初の1行から詰まってしまっている人、たくさんいらっしゃいます。

 でもこれがたとえば、芸術分野の作業だったらどうでしょう。彫刻に取りかかろうとするとき、いきなり頭の細部を綺麗に彫りこみ、仕上げながら進めていく人って、いないのではないでしょうか。絵画でも、マンガでも良いですが、何かの作品を作ろうと思ったとき、いきなりキャンバスの端っこから完成度の高い塗り方をしていく人や、真っ白な原稿用紙の1コマ目から描き込んでいく人は、たぶんいません。

 ごく一部の天才は分かりません。ミケランジェロはいきなり完璧な頭部から彫り始めたかもしれないです。が、我々は凡人ですので、まず「テーマを決める」「全体像を想像する」「大まかな構成が決まったら詳細なイメージを固める」「下書きをする」「本塗りに入る」みたいに、少しずつ全体の精度を上げていくようなステップが必要です。

 これが、文書作成にも存在するのです。

 私が今回紹介するのは「アウトラインライティング」と呼ばれる手法です。また、「アウトラインを書く前のステップ」についても紹介したいと思います。何故かというと「アウトライン」をいきなり作ろうとすると「アイデア(要素)を出す」と「出したアイデアを順番に並べる」作業がいっぺんに必要だからです。でも「要素」と「順序」は別で考えた方が、スムーズに進める事ができると私は考えています。人間の脳は「アイデアを出す」ことと「論理的に並べる」ことをいっぺんにやれるほど、器用ではないのです。

 というわけで、大まかに列挙すると、まとまった量の文書作成は以下のような順序になります。

 1.要素を書き出す

 2.順序を決める

 3.内容をもう少し具体化する

 4.スケジュールを立てる

 5.書く

 6.推敲する

 何となくイメージがつかめたでしょうか?A4ペライチの内容を作るときでも、50ページの企画書を作るときでも、この方法を応用してすらすらと書ける……ようになって欲しいと願っています。

アウトラインライティングが可能なソフトウェア

 さて、内容に入っていく前に、使用するソフトウェアの紹介をしていきましょう。

 今回、私がこの本の原稿を書くために使用したソフトウェアはMicrosoft Word (Mac版)です。お仕事で使われる方にとってもっとも身近なソフトウェアだろうと思ったからです。説明のためのスクリーンショットも、Mac版ではありますがWordになります。

 基本的なアウトラインプロセッサーの機能は、Wordだけではなく様々なワープロソフトに搭載されていますので、是非ご自身が使いやすいソフトウェアをいろいろ探してみてください。

 ・アウトラインだけで全体を見渡すことができる

 ・アウトラインがそのまま目次として使える

 ・各章の見出しに使える

 ことができれば、この本で記載する内容は充分再現可能です。

 アウトラインプロセッサーで有名なのは他に「Workflowy」「Omni Outliner(老舗!)」「Scrivener」など、いろいろあります。無料版があったり、一定期間体験ができるサービスもありますので、いろいろお試しいただいて、好きなソフトウェアやサービスを探してみてください。

 ちなみに、私は普段はPages (Mac版のWordみたいなもの)か、Ulyssesという文書作成のソフトウェアを使っています。Macを使っている人に、Ulyssesはおすすめです。iPhoneとも同期ができるので、通勤途中でもちまちまと執筆が可能です。

 また、この本を執筆するにあたっては新たにReviewという執筆環境を試してみたりしました。様々なものを試してみるのも楽しいです。PagesもReviewも、ePubへの書き出しができます。意外とePubへの書き出しがスムーズにできるソフトやサービスって少ないので、これは、と思うものを見つけておくとイイと思います。

 (Mac版のWord、ePub書き出しができれば文句ないのですけれども、できないんですよねえ……)

表記関係について

 本書に記載されている会社名、製品名などは、一般に各社の登録商標または商標、商品名です。会社名、製品名については、本文中では©、®、™マークなどは表示していません。

第1章 要素を書き出す

 ではまず、自分が書きたい内容の素材を全てフラットに書き出していきましょう。

 この時点では、漏れがあるかも、とか、順番をどうしよう、などを考えてはいけません。頭に思いついたものを、思いついた順に、とにかく全部机上に出してしまうことが大事です。

 とはいえ、やり方を工夫しなければ「書きたいことが分からなくなってしまった」「素材が散らかりすぎて収拾がつかなくなってきた」「何から書き出していけば良いのか迷って進まない」などの状況に陥りがちです。

 前章でも述べましたが、「最初から完璧な内容を」「完璧な順番で」「間違いがないように」書こうとすると、こういった混乱を招きます。

 ・最初に書いて良い内容が何か分からず、なかなか書き出せない

 ・あとから思いついた情報をさし込む場所が分からない

 ・書くのに相応しい内容なのか判断がつかなくて、追加し損ねる

 ・まとまっているかどうかが気になって、何度も手直しを始めてしまい、本文が進まない

 ……思い当たる事はないでしょうか。

 私も初めの頃はこの罠にはまってしまいました。私が常々思っているのは、よほどの天才を除いたほとんどの人間の脳は、「アイデアを出しながら」「それを完璧な状態に並べ」「無駄や間違いがないようにまとめあげる」ことが同時にできるほど、有能ではないのです。ですが、何故かそれをいっぺんにやってしまおうとするのが人間の脳でもあります。強欲です。効率を求める余り効率が悪くなっているのに気づかないのです。

 ですので、「要素をとにかく脳から吐き出すだけ」ということを自覚しながら、このステップを実施していきましょう。アイデアを出す場面は、「ブレインストーミング」などと呼ばれ、ビジネスシーンではよくあると思いますが、出しやすい方法がいくつかありますのでご紹介します。

1.1 要素の書き出し方

 ビジネスですでに「ブレインストーミング」などをおこなっていらっしゃる方は、すでに知っている方も多いと思いますが、基本としては以下の要素を満たしていることが重要です。

 ・思いつくまま、自由にアイデアを出す

 ・それが良いアイデアかどうかは吟味しない

 ・関連するもの、連想するものを全て出していく

 これに、私は独自に「関連性を付けやすいツールであればなお良い」を付け足したいところです。関連性を付けやすいツールを利用すると、その後の作業がとても楽になります。

 では、早速ツールを紹介していきましょう。

1.2 マインドマップを使う

 私がもっともおすすめしたいのはマインドマップを使う方法です。「マインドマップ」というワードを聞いた事がある方はたくさんいらっしゃると思いますが、マインドマップの書き方を詳細に書き始めると、違う本になってしまうので、ここでは私のやり方をメインにしながらご紹介します。

 必要なものは、白い紙か白いノート、集団でやる場合はホワイトボードでも良いです。

 あとはペン。マインドマップは、カラフルに枝ごとに色を変えて書くのが本式ですが、私は「何色だっけ」って考えながら持ち替えたりすることで、せっかくエンジンがかかった脳みその勢いが途切れてしまうので、いつも一色で書いています。お好きな方は枝ごとにカラフルに色を変えて書いていただいても結構です!

 ペンと紙は準備できましたか?準備ができたらはじめましょう。

中央にタイトルを置き、主要な要素を周りに書く

 まず、中央にタイトルを書きます。今回はこの本を書くための情報をまとめるので、ぼんやり「ライティングマネジメント」とでもしておきましょう。それから、今思いつくだけで大丈夫なので、大カテゴリ、おおまかに「これだけは最低でも書いておきたい」というものを枝で追加します。

 今回の本には、最低でも以下の項目については書きたいと思っていたので、まず5つの枝を伸ばして書き込みます。

 ・要素を書き出す

 ・プロットを作る

 ・書く時間を取る

 ・進捗管理をする

 ・推敲の時間を取る

 これに、さらにもう少し細かい内容を、関連する枝にくっつけて伸ばして書いていきます。「要素を書き出す」でもっとも書きたい主題は「思いつくもの全部出す」です。これも枝を伸ばして追加しておきましょう。「プロットを作る」の下にも「書く順序を決める」を追記します。このとき、どこに書くかは考えなくても良いです。並べ替えはあとでやるので、思いついた順に時計回りでも、反時計回りでもいいので書いておいてください。

 私が実際に書いた、最初の段階のマインドマップは以下のような形です。「☆イマココ」って書いてあるのは、このマインドマップの写真を撮ったときに追加するための場所になることを分かりやすくするためです。まさに今、「思いつくもの全部出す」の作業をしているところです。

図1.1: マインドマップ書き始め

 では同じように、他の要素にもどんどん追記していきましょう。

思いついた順にどんどん書く

 「書く順序を決める」を書きこみながら、ふと「おまけとして、リアルな本(印刷した同人誌など)にする時のことも書いておこうかな」と思ったので、それを追記することにします。ですが、これは今書いてある5つの枝のどこにも関連しなさそうなので、中央から新しい枝を伸ばして書き込みしてしまいます。さきほどの図であれば、左上の枝です。

図1.2: 追加した枝

 これだけ、妙に長いでしょう? こんな風に、思いついたところで新しい枝を増やして構いません。大要素に値する、と思ったものは中央から枝を伸ばし、大要素に属していたり、関連している要素は、それぞれの枝に繋げて書いていきます。

遠い要素もながーい枝で繋げたり、関連を書き込む

 どんどん思いついた順に書いていると、しまいにはだいたいこんな感じになっていると思います。写真を見るとごちゃっとしていますね。

図1.3: マインドマップがだいたい完成

 枝をひとつひとつ見てみると、「そうは言っても系統立ててアイデア出しができている」ように見えますが、これ本当にランダムに書いています。

 たとえば、「要素を書き出す」枝の内容を書きながら思いついた「書いてる途中で別要素を思いつくこともあるな」という内容を「書く時間を取る」の枝に書き込み、その枝の要素を伸ばしているときに思いついた「スケジュール管理が大事だよな」という要素を「進捗管理をする」の枝に書き込み、その途中で「1時間で何文字書けるかってみんな把握してるのかな? それも書こう」と思いついて「書く時間を取る」の枝に戻って新しい枝を伸ばし……みたいな感じであっちこっち飛び回りながら要素を追加しています。

 この「思いついたものをランダムにとにかく全部出す」ということが大事なのです。どういう順番で書こうとか、正しいアイデアかどうかの精査とか、実際に文章にしたらどうなるかとかは、今は考えなくて良いのです。

 だいたい要素を書き出し終わり、全体を眺めてみて、何となく関連がありそうだなあ、というところは、別の要素を書いているときに触れたくなることがあるかもしれませんので、ながーい枝や矢印で、こことここも関連があるよ〜って事が分かるようにしておくと良いと思います。

 私が書いたものの場合「本にする場合」の枝にくっついている「締切の確認」は、「進捗管理をする」枝の「スケジュールに落とし込む」と関連がありそうなので、手前でも触れておいた方が良いかなと思って、ノートをぐるっと囲むような矢印を追加しています。

 で、マインドマップのすごいところは、ざくざくとランダムに書いたはずの内容が、できあがってみると枝ごと(だいたいのテーマごと)にまとまっているところなのです。これから仕分けする必要がないのです。もし仕分けが間違ってそうな要素があったら、バツ印でもつけて雑に要素を消し、別の枝にくっつけ直せばOK。

 また、マインドマップを書いたノートを側に置いておけば、思いついたときにいつでも新しい枝を追加できるし、いつでもやめられるのも気に入っています。私は1日でこの作業をやることもありますが、だいたい数日かけてのんびり思いついた内容を書くことが多いです。

1.3 マインドマップを使わない

 さて、マインドマップのやり方が合わない、という方もいらっしゃるでしょう。マインドマップの他にも、アイデアを出すやり方はいくつかあります。私が実際に会社などで使った方法をご紹介しておきます。

 要は、さきほどの条件を満たせる、アイデアをフラットに出せるツールであればなんでも大丈夫です。

 ・思いつくまま、自由にアイデアを出す

 ・それが良いアイデアかどうかは吟味しない

 ・関連するもの、連想するものを全て出していく

 ・関連性を付けやすいツールであればなお良い

 これらを満たす自分に合った方法を、以下に挙げてみました。ご自身でも色々試してみてください。

付箋を使う

 ブレインストーミングでよく紹介されるやり方ですので、ご存知の方もたくさんいらっしゃるかと思います。これは、ホワイトボードやデスクなどに付箋を用意してアイデアを書き、どんどん貼っていくという方法です。このやり方でも、先ほどのマインドマップのように、ゆるくジャンルに分けてメモを貼っていくと、あとで整理が楽になります。

 実際に何度もやってみたことがあるやり方なのですが、個人的には「ジャンルやカテゴリに分けて貼ろうとすると広い場所が必要になる」「付箋を貼りっぱなしにしていたり、何度も貼ったり剥がしたりしていると粘着力が弱くなって勝手に剥がれてきてしまう」あたりが難点で、自宅では使いづらいなー、という感想です。

 でも「たくさん書きだしたぞ」っていう達成感が見た目で分かりやすい方法なのと、人数がいるときには俯瞰しやすいので臨機応変にどうぞ。

フリーボード(iPhone)を使う

 最近iPhoneでリリースされた「フリーボード(英語名:Freeform)」でも、マインドマップや付箋を使ったアイデア出しが可能です。ソフトウェアは無償ですし、iCloudに自動保存ですし、スマホで使用できますので、通勤中とか休み時間とか、ちょっとごろりとした状態でポチポチ追加できるので便利です。https://apps.apple.com/jp/app/フリーボード/id6443742539

図1.4: フリーボード

 これが実際に使ってみた画面です。個人的な難点は「iPhoneでは画面が小さいので俯瞰がしにくい」「縮小すると字が小さすぎて見づらい」ですかね……。iCloud同期でMacでも使えたら良いのになーと思います。

Miroを使う

 アイデア出し、タスク管理、プロジェクト管理などで有名なサービスです。https://miro.com/ja/

図1.5: Miroトップ画面

 テンプレートの種類が豊富で、使いやすいサービスです。難点、ではないのですが、無料だと3ボードまでなので、もしも気に入ったらStarterプランとかを購入されても損はないかなあ、と思います。

試し読みはここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。