目次

はじめに

ごあいさつと自己紹介
本を書こうとしたきっかけ
この本で学べること
対象読者
協力
参考書籍
連絡
免責事項
表記関係について
底本について

第1章 はじめに

1.1 経営管理の概要
1.2 経理業務とは
1.3 経理の現状の問題
1.4 解決手段
1.5 経営管理のあるべき姿
1.6 現状を理解する
1.7 業務改善を行う
1.8 さいごに

第2章 Google Apps Script 入門

2.1 Google Apps Script(GAS)とは
2.2 GASの導入方法
2.3 文法編
2.4 Google Apps を操作してみよう
2.5 よく使用する関数
2.6 さいごに

第3章 API入門

3.1 Web API とは何か
3.2 経営管理とAPI
3.3 APIの使い方
3.4 APIと認可
3.5 さいごに

第4章 freeeAPI を活用した実例

4.1 はじめに
4.2 事前準備
4.3 アクセストークンを取得する
4.4 実践例
4.5 さいごに

第5章 ケーススタディ

5.1 プロジェクト概要
5.2 さいごに

第6章 Google Apps Script をローカルで書くための環境をインストールしよう

6.1 はじめに
6.2 Node.js npm
6.3 clasp とは
6.4 @types とは
6.5 Prettierとは
6.6 ESLintとは
6.7 さいごに

第7章 ES6(ECMA2015)

7.1 ES6 とは
7.2 ES6で追加された文法一覧
7.3 さいごに

第8章 TypeScript 入門

8.1 TypeScript とは
8.2 TypeScriptのメインの型
8.3 関数の型定義
8.4 さいごに

第9章 TypeScriptでコードを書いてみよう

9.1 FSを取得する
9.2 変更した部分
9.3 TypeScriptをトランスパイルした結果
9.4 さいごに

おわりに

ご挨拶
コミュニティ
GASのアップデート
謝辞

はじめに

ごあいさつと自己紹介

 皆様はじめまして、この度は「Google Apps Script で経営管理を自動化する話」をご購入いただき誠にありがとうございます。この本の著者のKabanyasuと申します。普段は公認会計士として経営管理業務や会計税務を中心に仕事をしています。

 「ちょっと待て、なぜ公認会計士なのにGoogle Apps Scriptなんざやってるの?」と疑問に思うかもしれません。理由は単純で、「単純な転記・集計作業を減らし、人間が本来行うべきアタマを使う業務に注力できるようにするため」です。

 プログラミングを始めたのは、経理業務等に関わるにあたって面倒な仕事を手作業で行うことが多く、周りがそれを疑問に思わないことにうんざりしたためです。「だったら俺が自動化してやるわ!」と思い立ち、プログラミングの勉強を始めました。最初は手探りで勉強が進まないこともありましたが、会計効率化のために色々なツールを作成したり、顧客にシステム導入を行ってみた結果、SNS(主に Twitter)等でお声がけを頂けるようになりました。そのため、現在はプログラミングを活用した経理業務等を最適化するをお仕事を行ったり、ITGCやITACの評価業務、会計×ITに関するセミナー講師等を行っております。

本を書こうとしたきっかけ

 昨今の経営管理は技術の進歩により、クラウドサービスやSaaSといった便利なツールを使う機会が増えてきました。それらの技術は連携機能等が充実しているはずなのですが、それらを活用せずにいまだに紙やExcelなど手作業中心で業務を行っている例が少なくありません。

 Google Apps Scriptを使うことで、各種サービスの連携や情報の自動収集・自動加工を行うツールを比較的簡単に作成できます。それにより、今まで行っていた単純作業をシステムに置き換える等が期待され、人間はより付加価値の高い仕事に注力できます。

 GASを学び始めた際に、様々なネット記事や本を読んでみたのですが、基礎的な動作やコーディング手法に関しての情報は充実しているわりに、具体的な事例やシステム導入手法にまで踏み込んでいるものは少ないと思っておりました。そのため、経理業務効率化に必要な考え方・システム化が向いている項目の識別・業務改善のケーススタディ等、自分が本当に読んでみたい本を書きたいと思い、今回の執筆に至りました。

この本で学べること

 ・Google Apps Scriptの基本的な文法

 ・APIの基本的な使い方

 ・会計freeeAPIを活用した会計業務効率化の事例一覧

 ・JavaScriptの基本的な書き方

 ・ES6やTypeScriptの記法

 ・VSCodeやnpm のインストール方法

 名前から想像ができる通り、Google Apps ScriptはGoogle Appsを容易に操るためのプログラミング言語です。そのため、スプレッドシートやGoogleドライブを中心に業務を行う管理部門の方は、GASを活用することにより業務効率を上げることができる可能性があります。また、昨今の会計ソフトや経費精算システムはAPIを公開していることから、Google スプレッドシート等の各種システムと容易に連携することができます。したがって、比較的少ない学習コストで、経営管理層が行っている業務を自動化できるようになります。

 本書を学ぶことで、管理部門の方が行う業務の一部を自動化するための基礎を身につけることができれば幸いです。

対象読者

 ・Google Apps Scriptを学びたい初学者の方

 ・会計業務を効率化したいエンジニア・経理の方

 ・クラウド会計を普段から活用している方のうち、もっと使いこなしたいと思う方

 ・マクロを学習していた方のうち、別のプログラミングを学びたいと考えている方

 本書ではプログラミング初心者がググりながらなんとなく書けるようになるレベルを目指せるような構成にしております。最初は意味が分からないかと思いますが、手を動かしながら学べば絶対に身につくものですので、コツコツと進めていきましょう!

協力

 ・表紙デザイン:ジェームスさん @jms_pnt

 ・企画・レビュー:ハゲマントさん @hage_mant8210

 ・校閲:ハスキーさん @huskydog111, 伊織さん @534_yw

 ・協力:PyCPA の皆様

参考書籍

 ・実践 TypeScript(BFF と NEXT.js&Nuxt.js の型定義) 吉井健文

 ・Web API The Good Parts 水野貴明

 ・改訂新版 JavaScript 本格入門 ~モダンスタイルによる基礎から現場での応用まで 山田 祥寛

 ・経理の本分 武田雄治

 ・内部管理の基本と実務 東陽監査法人

 ・内部監査人のための IT 監査と IT ガバナンス 一般社団法人日本内部監査協会

 ・これですべてがわかる内部統制の実務 一般社団法人日本経営調査士協会

 ・新日本有限責任監査法人 「第6回:ITに係る業務処理統制及びITに係る全般統制」https://www.shinnihon.or.jp/corporate-accounting/commentary/internal-control/2012-04-27-01.html

連絡

 質問や感想、誤植等がございましたら、こちらのアカウントまでご連絡をいただければ幸いです。

図1: kabanyasuのTwitterアカウント

免責事項

 本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた開発、製作、運用は、必ずご自身の責任と判断によって行ってください。これらの情報による開発、製作、運用の結果について、著者はいかなる責任も負いません。

表記関係について

 本書に記載されている会社名、製品名などは、一般に各社の登録商標または商標、商品名です。会社名、製品名については、本文中では©、®、™マークなどは表示していません。

底本について

 本書籍は、技術系同人誌即売会「技術書典」で頒布されたものを底本としています。

第1章 はじめに

1.1 経営管理の概要

 経営管理業務とは、経理・財務・労務・法務・総務・税務といった業務範囲のことを指します。これらの業務は直接的に収益を獲得する業務ではありませんが、企業のインフラ及び屋台骨としての業務であることから、企業が経営活動を行うにあたり必要不可欠です。また、これらの業務は企業活動と密接に関係するにもかかわらず疎かにされがちであり、思わぬ所で足元をすくわれがちです。その反面、適切にこれらの業務に向き合えば、事業活動をより効果的かつ効率的なものにできるようになります。

本書での対象

 本書においてはこれらの業務領域の中から、「経理」を対象に進めて行きます。なぜなら、経理業務は定型的な業務が多いこと、最終的なアウトプットは数値になることから、最もプログラミングの恩恵を受けやすいからです。コンピューターシステムは昭和30年代から企業へ導入が始まりましたが、最小に適用された業務は、会計処理、給与計算、料金計算などの大量の計算を行う業務でありました。そのつながりから、経理業務ではExcelのマクロ等を用いた業務自動化が昔から行われてきました。

1.2 経理業務とは

 経理業務とは、「企業のすべての活動を事実をもとに一定のルールに従って記録し、利害関係者に向けて報告すること」を目的とする業務です。どの企業も年に一度、決算の結果として財務諸表を作成することが義務付けられています。財務諸表を作成するために帳簿に会計処理を記帳することは簿記と呼ばれており、経理担当者はこれらの業務を年間を通じて行います。財務諸表とは、企業が利害関係者に対して一定期間の財政状態や経営成績等を明らかにするために複式簿記に基づき作成される書類をいいます。財務諸表の種類は以下のとおりです。

財務諸表の名前 目的 主に作成義務のある企業
貸借対照表(B/S) 企業の財産の状況を明らかにする 全企業
損益計算書(P/L) 企業がいくら、どんな方法で利益を出したか明らかにする 全企業
株主資本等変動計算書(S/S) 企業の純資産の推移を明らかにする 全企業
キャッシュ・フロー計算書(C/S) 企業のキャッシュ・フローの状況を明らかにする 上場企業等

 これらの財務諸表は、以下のような目的で利用されることになります。

 ・銀行融資の申し込み

 ・税務申告書の作成

 ・投資に対する意思決定

 ・経営分析活動

 法律上求められる財務諸表だけでも、利害関係者に対して一定の情報を与えることができます。しかし、会計情報を財務諸表作成のみならず経営分析や予算作成等に利用することで、経営に有効な情報を提供することが期待できます。このように、財務情報を意思決定や組織内部の業績管理に役立てることを管理会計といいます。

 経理業務がカバーする業務範囲は、すべての企業で共通する財務諸表の作成以外の業務は、企業規模や成長ステージによって大きく異なります。場合によって、経理部は以下のような資料作成が求められます。

 ・組織規定の作成

 ・予算策定

 ・内部統制体制の構築

 ・有価証券報告書・四半期報告書の作成

 ・中期経営計画の作成

 財務諸表を含む各種資料の作成を抽象化すると、以下の3つのプロセスから構成されています。

情報の収集

 情報の収集とは、必要な情報を必要な場所から漏れなく入手することを言います。請求書や売上データを、顧客や営業部から収集する業務がこれに当たります。

情報の加工

 情報の加工とは、収集した情報を必要な形に加工することを言います。例えば、請求書の情報を会計システムに記入すること、会計システムから出力した試算表を経営分析資料や、予算に反映する業務がこれに当たります。

情報の格納

 情報の格納とは、加工した情報を然るべき場所に格納することを言います。例えば、経営分析資料に係る情報を必要なチームに共有すること、整形後のデータを保存用のファイルに保存することを言います。

バックオフィスは価値を生まない仕事なのか

 一般のビジネス職の方の中には「経理部は請求書を集めて伝票に記帳するだけが仕事」と思っている方もいらっしゃるかと思います。本当にそうなのでしょうか?

 経理部には社内外から様々な情報が集約されます。営業部からは受注関連の情報や請求書、購買部門からは仕入関連の情報、製造部門からは製造・在庫情報・仕損品の情報、IT部門からは工数や開発に利用したSaaSの月額利用料といった情報が集まります。それに伴い様々な形式でエビデンスが提出されることになります。

 経理部はこれらの情報を集約するのみならず、仕訳や経営分析資料などに加工する必要があります。それらを作成するためにはビジネスへの深い理解を前提として、意思決定に有用になるように集約整理を行い、格納することが求められます。

 そのため、経理部は情報の集約のために、ビジネスの理解のみならず、扱いやすいデータ作成のスキルが求められます。一般的にはテーブル形式のデータが扱いやすいと言われています。理由としては、ピボットテーブルやフィルター等、データ加工が行いやすい形式であるためです。

1.3 経理の現状の問題

 経理業務の業務を抽象化すると、以下の3つのフローになります。

 1.利害関係者から情報を集約し

 2.それを会計情報に変換し

 3.利害関係者に展開する

 しかし、これらの3ステップを行うための体制がきちんと構築されていない会社が非常に多いです。その中でも、情報伝達と人材に問題を抱えていることが多く見られます。

情報伝達の問題点

 情報面に関する問題点は以下のようになります。

 1.情報収集。情報整理の体系・方針が定まっていないため、何がどこにあるかをわかる社員がおらず、時間を無駄に浪費することになる。数値の報告も遅くなり、経営判断も遅くなる。

 2.コミュニケーション。営業部門や開発部門等とのコミュニケーションがうまく図られない。その結果、データの入手が遅れ、記帳・報告が遅れ、経営判断が遅れる。

 3.エビデンスのデータ形式(紙・PDF・メール・管理画面)がバラバラ。入手経路も、郵送・チャットツール・web画面・メールなどバラバラ。一元管理がうまく行かず、情報収集が遅れ、抜け漏れが発生しやすい。

 4.報告業務が煩雑。年度や四半期は法令や会計ルールにより定まったものなので仕方ない側面もあるが、効率化の余地あり。月次は、経営層が「見たいフォーマット」が変わったり、「部門」が変わったりすることで、加工集計の手間が増え、データの整形に多大な労力・時間を要する

 特に中小企業では、会計システムと他の業務システムの連携が成立していないケースがあり、システム間のデータのI/O が上手く行えなかったり手間がかかる場合が多いです。

 上記のような情報伝達のミスが重なると、月次・四半期次・年度決算の時期はもとより、レポーティングやエビデンスの収集などで「年中忙しい」経理が誕生してしまいます。

経理人材の不足

 経理人材が不足している昨今の状況だと、経理担当者に過剰に業務が集中してしまうことが増えてきてます。特に上場準備企業における経理担当者は毎月業務に追われて残業が常態化することも珍しくありません。また、中小企業やベンチャー企業では、経営者の意向等の要因でバックオフィス人員に多くのリソースが割かれず、少数の人員で経理以外のバックオフィス業務(労務・総務・法務など)も対応せざるを得ない状況も多く見られます。このような状況では、必然的に経理業務に割かれる時間は減少していき、不正確な記帳やエビデンスの収集漏れ、経営に対する実績数値の報告の遅れなどが生じ、不正が生まれる余地を残したり、税務申告を誤ったり、実態把握の誤りや遅れにより経営のダメージになることもあります。

試し読みはここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。