目次

はじめに
Wolfram言語とは
免責事項
表記関係について
第1章 いきなり挫折しないために
1.1 WolframScriptで遊んでみる
1.2 式の実行
1.3 関数の実行
1.4 配列ではなくリスト
1.5 厳密値計算
1.6 関数の宣言
第2章 Wolframノートブック環境構築
2.1 環境構築(Windows)
2.2 環境構築(Mac)
第3章 試しに動かしてみよう
3.1 Wolfram言語のロゴを使ったCGを描く
第4章 Wolfram言語を学ぶ
4.1 仕組み的なお話
4.2 よく使う関数を覚えよう
4.3 よく使う演算子を覚えよう
第5章 プロットとグラフィックス
5.1 Plot
5.2 ListPlot
5.3 ParametricPlot
5.4 プロットの応用
あとがき

はじめに

 本書では、主に有料ソフト「Mathematica」で用いられる「Wolfram言語」のインタラクティブ実行環境を無料で構築し、研究開発やクリエイティブなどに役立つ技術を紹介します。

 Wolfram言語はとても強力なプログラミングをできる環境ですが、それを実行するためのソフトウェア「Mathematcia」は数万円、あるいは数十万円かかるため、導入以前に挫折するケースが大変多いです。

 無料で構築できる秘訣は、Mathematicaの開発元であるWolfram社が「Wolfram Engine」(Wolfram言語を実行できるコア機能)を無料で提供していることがまず第一です。Wolfram Engineを動かすコマンドラインプログラム「WolframScript」は、ユーザーインターフェースについてはGUIの統合開発環境としても優れたMathematicaには劣ります。しかし、グラフィックスとの連動も優れたオープンソース技術「Jupyter Notebook」の機能に加え、Microsoft社が無償で配布しているコードエディター「Visual Studio Code」(略称: VSCode)でノートブック管理ができるので、使用感はMathematicaのノートブック作成にかなり近づきます。

Wolfram言語とは

 Wolfram言語は元々はウルフラム・リサーチ社の創始者であるスティーブン・ウルフラム氏らが1988年にリリースした数式処理システム「Mathematica」というソフトウェアから始まり、現在でもWolfram Mathematicaは販売され続けています。

 Mathematicaというのはソフトウェアの名称で、言語としてはWolfram言語という名称が正式なものとなります 1

 Wolfram言語の素晴らしいところは、6000個近くの組み込み関数がある充実した環境で、特にグラフィカルな入出力がとても優れているところです。

 最近では機械学習やデータサイエンス、ブロックチェーンなどの新技術も取り入れています。

免責事項

 本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた開発、製作、運用は、必ずご自身の責任と判断によって行ってください。これらの情報による開発、製作、運用の結果について、著者はいかなる責任も負いません。

表記関係について

 本書に記載されている会社名、製品名などは、一般に各社の登録商標または商標、商品名です。会社名、製品名については、本文中では©、®、™マークなどは表示していません。

1. Wolfram言語という名称が後発のため、近年でもWolfram言語そのもののことをMathematicaと呼ぶことがありますが、本書では基本的に「Wolfram言語」という名称に統一し、ソフトウェアとしてのMathematicaと区別しています。

第1章 いきなり挫折しないために

1.1 WolframScriptで遊んでみる

 第2章でWolfram Engineを入れて動作確認をしたい方、ノートブック環境を整える途中でつまずいてしまった方、一旦ここで遊んでみましょう。

 Webで試したい場合は「Wolfram|Alpha」というサイトにアクセスすれば、事前準備なしである程度体感できます(ただし完全な互換性はないので注意)。

 https://www.wolframalpha.com/

 それではよく出てくる例で

100!

 を実行してみましょう。

 ほとんど待たされることなく

9332621544394415268169923885626670049071596826438162146859296389521759\
9993229915608941463976156518286253697920827223758251185210916864000000\
000000000000000000

 と答えが出てきます。32ビットとか64ビットとか、関係のない厳密値計算ができます。

1.2 式の実行

 ノートブック環境で式入力してEnterで結果が出ると思いきや、そうはいきません。実行するにはShift+Enterです(※WolframScriptの場合はEnterで実行)。

 Enterキーは単なる改行です。ひとつのテキストエリア(「セル」と呼びます)に複数行の命令を詰め込めるので、セルを入力し終わったらShift+Enterを押しましょう。

1.3 関数の実行

 結果として0を出力するつもりで、次の式を実行してみましょう。

sin(2pi)

 もう一度言いますが、EnterではなくShift+Enterで実行します。

 結果は

2 pi sin

 括弧が外れて順番が並び変わっただけですね。

 実はここでは、3つの間違いを犯しています。

1.3.1 組み込み定数は大文字で始まる

 円周率πを表す定数はPiです。基本的に、Wolfram言語が予め用意している定数は大文字で始まります。

1.3.2 組み込み関数も大文字で始まる

 正弦関数sinを表す関数はSinです。関数名も、組み込みのものは大文字で始まります。よくあるプログラミング言語では、クラスと関数を区別するために大文字・小文字を使い分けていますが、そのあたりのルールが違うのがつまずきやすいポイントです。

 慣習的に、自分で定義する関数や定数は小文字で始めることになっています。

1.3.3 関数の実行は"[ ]"

 正弦関数に代入するときは

Sin(x)

 ではなく

Sin[x]

 です。

 多くのプログラミング言語では"( )"を用いるので、これが一番直感的でないかもしれません。

Sin[2Pi]

 これで無事、0が出力されます。

試し読みはここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。