目次

本書の目的

本書の対象読者
前提とする知識
問い合わせ先
謝辞

序文

第1章 オンラインとオフラインの違い

1.1 オンラインイベントはオフラインの代わりなのか
1.2 コミュニティを二軸でとらえる
1.3 それぞれの目的
1.4 地方でも届くオンライン、ディープコミュニケーションなオフライン

第2章 準備編

2.1 イベントに必要なもの(ハードウェア編)
2.2 Webカメラ
2.3 マイク
2.4 照明
2.5 ATEM Mini
2.6 HDMIキャプチャー/HDMIスプリッター
2.7 ネットワーク
2.8 イベントに必要なもの(ソフトウェア編)
2.9 配信ソフトウェアについて
2.10 音声のテキスト書き起こしについて
2.11 ノイズキャンセリングソフト
2.12 仮想Webカメラ(Snap Camera)
2.13 OBS-virtualcam/obs-mac-virtualcam:OBSの仮想カメラ機能
2.14 mmhmm
2.15 知っていると便利なサービス
2.16 バーチャル背景用の壁紙
2.17 著作権フリーな音楽
2.18 オンラインイベント用のWebサービスたち
2.19 クラウドのデスクトップ環境
2.20 配信サービス

第3章 Tips

3.1 運営者向けTips
3.2 登壇者向けTips
3.3 オンラインで見やすいスライド、アニメーション、音声、動画
3.4 バックアップ
3.5 参加者へのアンケート
3.6 心構え

第4章 実践編

4.1 最低限でやってみよう
4.2 ファシリテーション法
4.3 盛り上げ方
4.4 トラブル対応

あとがき

本書の目的

 本書の目的は、コミュニティにおけるオンラインイベントの開催方法について、基礎的な使い方を身につけることです。心構えや盛り上げ方といったな内面的な部分、必要なソフトウェアやサービス、ハードウェアなどについてまとめてあります。

 あくまでもコミュニティにおける配信についてまとめていますので、ウェビナーやカンファレンスなどは対象としていません。

本書の対象読者

 本書は次のような人を対象としています。

 ・コミュニティに興味がある方

 ・コミュニティを運営していて、オンラインイベント開催に興味がある方

前提とする知識

 本書を読むにあたり、次のような知識が必要となります。

 ・基本的なコンピュータ、インターネットの利用に関する知識

問い合わせ先

 本書に関する質問やお問い合わせは、次のページまでお願いします。

 ・URL: https://devrel.tokyo/books/online-community

謝辞

 本書はDevRel Meetup in Tokyoのコミュニティメンバーで執筆しています。皆さん、普段の仕事があり、締め切りまでの時間もない中で何とか書き上げました。お疲れさまでした。

序文

 著者:中津川篤司@MOONGIFT

 2020年前半に起こった劇的な変化を挙げるなら、まず間違いなく新型コロナウィルス(COVID-19)が思い浮かぶでしょう。多くの方たちが亡くなり、さらに多くの人たちの生活習慣が激変しました。皆さんの中でも、会社へ出社せずリモートワーク主体になっていたり、学校へ登校できずオンライン授業になっているという方も多いことでしょう。

 これまで当たり前のようにできていたことが、数多くできなくなってしまいました。そのひとつが「リアルに人と会うこと」です。会議もリモートが当たり前になり、企業によってはオフィスフロアを縮小し、同僚に会うことさえ難しくなっています。当たり前すぎて特別感などなかったことが、去年の今ごろを思えばまるで遠い過去のようです。

 しかし悲観ばかりしていても何も生まれません。幸い、現代にはインターネットがあり、それを利用するためのコンピュータやスマートフォン、タブレットなどさまざまなデバイスが存在します。会社に出社しなくとも仕事ができますし、ミーティングもこなせます。友人との交流もメッセージアプリケーションを使えば問題ないでしょう。新型コロナウィルスは悲惨な出来事ですが、それでもまだ現在でよかったと感じます。これが20年前(2000年)だったら、日常生活がもっとたいへんなことになっていたのは間違いありません。

 さて、本書で取り上げるのはコミュニティのオンラインイベントです。コミュニティもまた、コロナウィルスによって激変を余儀なくされています。先ほど挙げた「リアルに人と会うこと」こそ、コミュニティの醍醐味だったはずです。しかし、それがまったくできなくなってしまいました。3月頃はチラホラと小さなイベントが行われたようですが、本書執筆中の2020年11月現在、リアルで行われるコミュニティイベントは皆無といってよいでしょう。日本中どこかで毎日開催されていた、当たり前のように行われていたコミュニティイベントが一気になくなってしまいました。

 当たり前が奪われた結果、何が起こったのか。それはダイナミックな進化と言えるでしょう。コミュニティイベントの多くが、強制的にオンラインに移行したのです。そこでは、従来の方法は利用できません。一ヵ所に集まってプロジェクターに投影しながら話を聞くことはもちろん、受け付けを設置したり、ピザと飲み物を用意した懇親会もできません。しかし、それに変わる方法を生み出したり、まったく新しい観点のサービスも数多く登場しています。

 3月当時はそれほど多くなかったオンラインイベントですが、今では毎日数十のイベントが開催される規模にまで戻ってきています。そこではさまざまな知見が蓄積されており、リアルイベントの補完はもちろん、オンラインイベントならではの良さを活かした試みも多数行われています。一ヵ所に集まって開催することはできなくなったコミュニティイベントですが、知恵と工夫でさらにその勢いを増しているといっても過言ではありません。

 筆者たちは2月後半からイベントをオンラインで実施しており、数多くの失敗(と少しの成功)を繰り返してきました。その学びを本書にこれでもかと詰め込んでいます。これからオンラインイベントをやってみたいと思っている方はもちろん、すでに始めている方にとっても得られるものがあることを期待しています。

第1章 オンラインとオフラインの違い

 著者:中津川篤司@MOONGIFT

 さあオンラインイベントについて学んでいきましょう、と言いたいところなのですが、まずは従来のオフラインとオンラインとでイベントがどう異なるのかについて学んでいきましょう。両者の特性の違いを知っておくことで、ついついオフラインのやり方を持ち込んでしまい、手痛い失敗をするのを防げます。

1.1 オンラインイベントはオフラインの代わりなのか

 現在、コロナ禍にあって3密を避けるように依頼(という名の指示)が出ています。強制力はありませんが、ほぼすべての開発者コミュニティが従っているのではないでしょうか。私が運営に関わっているコミュニティも、2月の終わりからすべてオンラインに切り替わっています。運営者として気にするのは、もし自分たちのコミュニティが感染を広げるクラスターになったらどうするか、ということです。万一そんなことになったら、このご時世ソーシャルメディアで徹底的に槍玉に挙がってしまうでしょう。その結果、コミュニティの存続すら危うくなってしまいます。おそらく、ほかのコミュニティも同じ思いなのだろうと推測します。

 さて、では将来的にコロナウィルスの影響がなくなったとして、みんなオフラインイベントに戻ってくるでしょうか。個人的にはすべてがすべて元通りにはならないと考えています。それはなぜかといえば、オンラインの良さを知ってしまったからです。もちろんオンラインイベントでは物足りないと感じる場面もあります。リアルで人と会ったり、話を交わしていた時が懐かしくなることもあります。しかし、それでもなおオンラインにも魅力があるのです。

 そのためアフターコロナ(現状はウィズコロナですね)では、オフラインとオンライン、相互の利点を活かした形に進化していくと考えています。たとえばオフラインイベントをオンラインで配信したり、時にオンラインだけで開催する、さらには登壇者がオンラインで登壇するといった形式も当たり前になっていくと考えています。いわば、オフラインとオンラインのリミックスと言えるでしょう。それだけに、今のうちにオンラインでのコミュニティイベントのコツをつかんでおくと、アフターコロナでもきっと役立つはずです。

1.2 コミュニティを二軸でとらえる

 さてここから相違点について考えていきます。まず、コミュニティをふたつの軸で考えてみます。ひとつ目の軸は広さ、もう片方は深さです。このように、オンラインとオフラインでは特性がほぼ反対であると分かります。


広さ 深さ
オフライン ×
(地域の縛り。
会場の制限)

(顔を合わせて話ができる。
声以外の意思疎通も可)
オンライン
(世界中どこからでも。
人数無制限)
×
(相手と深く知り合えない。
気軽に参加できる心理的安全性)

1.2.1 広さ

 オンラインイベントになって強く感じるのは、日本中(さらには世界中)から多くの人たちが参加してくれるということです。逆に参加者の立場に立ってみると、世界中で行われているイベントに手軽に参加できるようになっているのがとてもうれしいです。カンファレンスのような大規模なものであればまだしも、地域で行われている小さなイベントのために海外まで出向くのは難しいでしょう。国内でもそれは同じで、たとえば2つの県をまたいだところで行われているイベントに参加するのは難しかったはずです。それがオンラインであれば、1クリックで参加できてしまいます。

 つまり広がりという点で考えれば、オンラインイベントはオフラインイベントよりも圧倒的に有利です。オンラインイベントをやっていると、地方に住んでいる方から参加できてうれしいという意見をいただくことがよくありました。これまでは参加したいと思ってもなかなか踏み切れなかったイベントが、オンラインになって参加できるようになったということです。主催者としても、これまで情報が届けられなかった人たちへ裾野が広がっていく喜びがあります。

 さらに、物理的な広さという観点もあります。会場の制限がなくなったことで、ほぼ無制限に人が参加できるようになりました。オフラインでイベントを行う上で、会場の広さは常にネックです。有名な勉強会になると、集客を開始してすぐに満員になってしまう、なんてことも珍しくありませんでした。その体験は非常に悪いものです。また、とにかく我先に登録だけする人たちが増えることになります。さらに、「とにかく登録」した人たちは、改めて予定を確認した結果、いけないことが分かって前日くらいにキャンセルするものです。補欠になっていた人たちにすれば、突然繰り上がりで行けるようになったといわれても、もうスケジュールを調整できなくなっているから参加できません。これは参加者、主催者どちらにとっても不幸な体験です。

 オンラインイベントでは、参加人数はほぼ無制限です。多くの場合、100名までくらいであればZoomを使い、さらに増える場合にはYouTube Liveなどを使って配信しています。YouTube Liveを使えば、配信対象人数は無制限といっても過言ではないでしょう。数千人、数万人でも同時に視聴できます。これはオンラインのイベントではなかなか実現できません。

1.2.2 深さ

 次に深さを考えてみましょう。ここでいう深さとは、コミュニケーションや参加者とのつながりのことです。コミュニティのイベントがオンライン前提になって、既知の知り合いとのコミュニケーションはもちろん、新しく入ってきた人とのコミュニケーションも取りづらいという声はよく聞きます。たとえば先のYouTube Liveでの配信についていえば、チャット機能はあるものの、そこで対話が繰り返されることはあまりありません。少なくとも、そこで互いにつながりを感じることはなく、コミュニティを深く形成していくことはないでしょう。

 互いの顔が見える、同じ場所にいるという接点の多さが親近感を持たせ、コミュニケーションを活発化させます。オンラインになると状況は異なります。ある人は自宅にいたり、別な人はWebカメラをオフにしていたりします。そうした中で、深いコミュニケーションを構築していくのはとても難しいのが実情でしょう。オンラインで盛り上がれるのは、オフラインが当たり前だった時にすでに何度も顔を合わせている、見知った間柄にある人どうしであることが多いようです。また、そうした人たちだけで盛り上がっていると、むしろ内輪感が出てしまって、新規の方が入り込みづらい雰囲気を作ってしまいます。

 逆に、これまではなんとなく「強そうな」コミュニティで参加するのに気後れを感じていた方たちにとっては、オンライン化によって匿名でも参加できるようになったのは大きなポイントです。強くコミュニケーションを求めず、まずはROM(リードオンリーメンバー)のように過ごしたいと思っている場合には、YouTube Liveなどで様子をうかがう方が心理的安全性は高いはずです。主催者としてはそうした人たちがいることも理解しつつ、必ずしもWebカメラをオンにするように強要したり、コミュニケーションを求めすぎない方がよいのではないでしょうか。

 コストや手間という観点からみると、オンラインは圧倒的に安価です。会場へ移動する交通費も必要ありませんし、懇親会のピザや飲み物を手配する手間や費用も必要ありません。会場費もなく、オンライン配信する上での費用はかかったとしても数千円程度でしょう。では安ければ安いほどよいかというと、そうではありません。「手間がかかる子ほど可愛い」という言葉がありますが、それはコミュニティにも当てはまります。多少の手間暇(時間、お金など)をかけた方が、より愛着もわくというものです。コミュニティでいえばロイヤリティに相当するものです。実際、オンラインイベントになって参加率が極端に悪化しているのは、こうした手間が必要なくなったことにも要因が挙げられるでしょう。

 広く、浅く情報を伝えていくという面においては、オンラインがとても有効です。たとえばウェビナーであったり、YouTuberのような発信に主眼が置かれている場合はそうでしょう。しかしコミュニティとして運営者と参加者はもちろん、参加者どうしでも知り合ってほしいという、深さを求める場合にはオフラインの方が優勢に感じられます。もちろん、それぞれの向き不向きがありますので、どちらかがどちらかを凌駕するということではありません。

1.3 それぞれの目的

 つまり大事なのは、オンラインとオフラインそれぞれの特性を理解して、目的をはっきりさせるということです。オフラインでイベントができなくなったから、その代わりにやっているくらいの意識ではよくありません。それはイベント参加者との意識のずれが生じて、どんどんメンバーが離れていってしまう可能性があります。逆に目的を切り替えたり、新たにできれば、コミュニティの発展につなげられるでしょう。

 オフラインの場合、オンラインよりもコミュニケーション密度が濃い、つまり深度の深いコミュニケーションが可能だと書きました。多くの場合、オフラインでのイベント開催はセッションなどを通じた情報の共有もさることながら、参加者どうしのコミュニケーションも重視していたはずです。それは懇親会や参加者どうしのちょっとした雑談(知り合いが参加していたので声をかけた、隣の席の人とちょっと会話したなど)や受け付け時の挨拶、二次会などの触れあいに現れます。

 そうした参加者どうしのつながりが生まれ、和気あいあいとした雰囲気が醸造されていくとコミュニティはもっと楽しいものになります。相互コミュニケーションがコミュニティをジブンゴト化し、帰属意識(参加している感)を生み出します。その結果、次回も参加しようと思ったり、さらに同僚を誘って行こうという気にもなるでしょう。その繰り返しによって、コミュニティは徐々に規模を拡大していきます。

 対してオンラインの場合はどうでしょうか。まずオフラインの時には必要だった諸処のコストかかからなくなっています。場所、飲食物、受け付け、移動時間や費用などが不要になり、遠隔地であってもインターネットさえあれば参加できるのが利点です。これまでは東京や地方都市だけでイベントを開催し、共有していた情報が、日本中(世界中)どこへでも伝搬されるようになりました。オフラインの時に比べて、録画を残してアーカイブとして公開するのも簡単です。こうしたメリットによって、情報が広く拡散できるようになったのがオンラインイベントの利点となるでしょう。

1.3.1 目的を分けて考える

 つまり、深さよりも広がりを求める際にはオンラインに利点があるといえます。たとえば新しく立ち上がったサービスであれば、圧倒的に知名度がありません。そうした中、小さなイベントを繰り返していてもなかなか知名度は上がらないでしょう。しかしオンラインでイベントを行えば、圧倒的に対象者数が増えるはずです。

 このように目的を分けて考えることができれば、何のためにイベントをやっているのかも明確になります。もちろんオンラインにあっても深度を深める工夫はありますが、それは後の章で紹介していきます。

1.4 地方でも届くオンライン、ディープコミュニケーションなオフライン

 著者:Journeyman

1.4.1 始めに

 2020年2月、コロナの影響で多くのカンファレンスやミートアップが中止になりました。奇しくも当コミュニティ「DevRel meetup in Tokyo」(以降DevReljp)が主幹事になって開催する「DevRelCon Tokyo」の開催予定月でした。否応なくすべての方に訪れた変化です。それから半年、皆さんのコミュニティにはどんな変化が起きていますか。本セクションでは、コロナ前後で複数コミュニティの企画運営をしてきた筆者が、それぞれの違いについてまとめます。

 DevReljpの開催実績は、最後のオフライン開催は2020/02/05(水)の#49でした。その後、 2020/03/04(水)#50からオンライン開催に切り替わって今に至ります。以降、順調に開催を続けオフライン時代と変わらぬペースで開催しています。もともと、DevReljpが新しい取り組みにチャレンジする文化があります。さまざまなツールや開催形式を試し、興味深い経験をしています。準備編、実践編で詳述していますのでぜひご覧ください。

1.4.2 突然のオンラインシフトがもたらした変化

 ミートアップがオンラインに以降し大きな変化がいくつも現れました。良し悪しについては前段のPro/conなどに譲ります。3つの大きな変化について紹介します。

空間的制約からの解放

 東京圏(東京・埼玉・神奈川・千葉)では、日々多数のオフライン勉強会が開催されていました。オンラインになり、物理的な制約がなくなり、日本全国どこからも参加できるようになりました。大規模なカンファレンスなど知り合った各地域の知人は「知る機会に格差がなくなった」という文脈で歓迎しています。また、地域支部どうしの協力もしやすいです。たとえば、2,000km離れている福岡と札幌が共同で開催することも簡単になりました。これは、参加者だけでなく、運営者・登壇者についても言えます。

時間的制約からの解放

 動画アーカイブによる時間的制約からの解放です。オフライン開催時代にはほとんどのミートアップで実施されていなかった録画が、当たり前になりました。動画アーカイブの登場は、好きなタイミングで、場合によっては好きな再生スピードでの視聴を可能にしました。それは一方で「双方向なコミュニケーションがあるミートアップ」から「講師と聴講者のセミナー」への変化とも言えます。果たして、それが本来の目的に合っているかどうかは別ですが。

開催負荷の大幅な軽減

 運営者にとっては大きなポイントです。ミートアップがオンラインになり、会場手配・ドリンク手配・簡単なスナック手配・会場設営や現金の取り扱い・ミートアップ後の2次会の予約、すべてなくなりました。開催場所が限られる地域では、会場手配は毎回頭を悩ませているポイントです。会場手配がなくなるだけで肩の荷が下ります。オフラインで時代は、2ヵ月に1回だったコミュニティが、月2回開催に移行した実績もあります。大きな変化といえます。

1.4.3 オフラインならではのディープなコミュニケーションがなくなって

 一方で、完全なオンラインシフトで失われたモノもいくつかあります。オンラインでも、工夫次第で擬似的な状況は作れますが、体感として大きく欠落してしまうポイントを3つ紹介します。

画面越しでは参加者の反応を得るのが難しい

 オンラインになって、なかなか解決策を見出すのが難しい問題の筆頭と言っても良いです。運営者、登壇者、参加者も画面の前にひとりです。オフラインであれば、その場の空気、壇上の人や周りの人の身振り手振りや気配が感じられます。でも画面の前だと意識して可視化しないと認識が難しいです。仮に、意識してリアクションなどで可視化してもお互いの視線を通してやりとりできる感覚には及ばないのが実態です。VRなどでより没入感のある体験にシフトすると少しは改善するでしょうか。

1対1のおもてなしが難しい

 オフラインでは、新規の参加者の方がくれば俯瞰的に認識でき、積極的な声がけやおもてなしは意識すれば可能でした。一方オンラインになると誰が参加しているかが見えにくく、余程意識しないと分かりません。オフラインで実施していた会場懇親会の代わりにオンライン懇親会を実施しても、初参加でビデオもマイクオンで参加するのは、難しいのではないでしょうか。一同に集まっていたオフライン時代には自然とできていたことも、オンラインでは工夫が必要です。

つながるのが難しい

 ひとりひとりの顔を見て挨拶して自己紹介して名刺交換する、その流れで自然とつながるポイントがたくさん持てていたのがオフラインです。オンラインになると、そもそも空間どころか時間の制約もなくなるため、同じ空間で同じ時間を過ごした関係性とは比較にならないほどつなりが薄くなってしまいます。仮に同じ時間を過ごしていても、明快につなりを作るためのしかけを準備していないと、つながる状況を作るのは難しいです。

 オンラインならでは、オフラインならではそれぞれの特徴があります。コミュニティの軸として何を大事にするかは、運営者次第です。しばらくオンライン中心の時期が続きますので、オンラインが苦手なポイントについて今後も研究して解決していきます。

第2章 準備編

 著者:池原大然@Twilio

2.1 イベントに必要なもの(ハードウェア編)

 オンラインコミュニティでイベントを始めるにあたって登壇者や運営側が準備しなければいけないものはどんなものでしょうか。この節ではWebカメラ、マイク、照明、映像、配信機材やネットワークなど、オンラインイベントを実施するためのさまざまなハードウェアについて取り上げます。

 これまでオンラインセミナーやイベントに参加して画面が見づらかったり、音声が聞き取りにくかったりしたことはありませんか。人間は他人との会話の中で話されている内容以上に音声や、表情、身体の動きから多くの情報を得ると言われています。参加者がストレスなくオンラインコミュニティに参加し、ミートアップやイベントを視聴できるようにしたいものです。

 ・Webカメラ

司会、セッション登壇、パネルディスカッションなどで自分自身の顔を映すWebカメラは、オンラインコミュニティならではの機材といえるでしょう。この項では、さまざまなWebカメラの種類を取り上げます。セッション中はネットワーク帯域を確保するため、発表者以外がWebカメラをオフにするコミュニティもあります。しかし、懇親会等では自分自身を映し出す機会があるでしょう。ひと手間かけることで質の良い画像をほかの参加者に届けられます。

 ・マイク

音声を届けるマイクは、オンラインイベントで最も重要な機材のひとつです。マイクの感度が悪い、あるいはマイクが自分以外の音をひろってしまう、自分の声質とマイクの特性が合っていない。これらすべてが視聴者にとってストレス要因となります。マイクを含めた音声に関わる部分は必ず事前に確認すべき項目です。

 ・HDMIキャプチャー/HDMIスプリッター

HDMIキャプチャーはビデオカメラやデジタルカメラの映像や、スマートフォン、タブレットなど別のデバイスで表示される画面を配信する場合に使用します。キャプチャカードが許容する解像度やフレームレートはもちろんのこと、遅延についても考慮する必要があります。HDMIスプリッターは入力された映像信号を2つ以上に分配できます。配信側で出力映像モニター用として利用する用途や、レコーディングのため出力機材とは別機材に映像を送信するために利用します。

 ・ネットワーク

Webカメラ、マイク、HDMIキャプチャー、HDMIスプリッターなどさまざまな機材の準備が整いました。しかし回線が遅い、安定しないという状態はすべてを台なしにします。登壇者や配信者が高速かつ安定したネットワークを利用することが、オンラインコミュニティを成功させるために重要です。

2.2 Webカメラ

 著者:池原大然@Twilio

 自分自身をよりよく見せるために、カメラに気を遣いましょう。この項ではノートPCに標準で搭載されているカメラ、USBで接続するカメラ、スマートフォンのカメラ、ビデオカメラやデジタルカメラなど、Webカメラとして利用できる機材について紹介します。ただし、映像にこだわりすぎて「沼」とも呼ばれる終わりのない旅に出てしまわないようにご注意ください。

2.2.1 ノートPC付属のWebカメラ

 まずはノートPCに付属しているカメラで始めてみましょう。すでにシステムに組み込まれているので、基本的に接続の問題はありません。しかし、解像度や画素数、フレームレートは最低限というレベルです。

2.2.2 USB接続のWebカメラ

 USB接続のWebカメラは安いものから画質を追求したものまでレンジが広いため、次のステップとして最適です。1万円を超えるような高価格帯のWebカメラであれば、解像度や画素数、フレームレートがそれなりに満足のいくデバイスを入手できます。ドライバーや支援ツールについても、インストールや設定はさほど難しくありません。

2.2.3 スマートフォンをWebカメラとして利用

 スマートフォンのカメラは、高性能なものがたくさんあります。たとえば数世代前のiPhone 8ですら、前面カメラは700万画素を備え、4K(3960 x 2160ピクセル)で60フレーム/秒の動画撮影が可能です。USB接続のWebカメラで同じスペックを持つものは多くありません。

 スマートフォンをWebカメラとして利用する場合は、EpocCam1や、Camera for OBS Studio2などをスマートフォン、配信PCに導入する必要があります。2,000円以下で購入できるため、USB接続に比べて低コストで高画質のWebカメラを手に入れられます。

 しかし、必要なソフトウェアやドライバーのインストール、接続設定が複雑です。また、ソフトウェアのバージョンや利用する機種により、カメラの接続が安定しない場合もあります。さらに、スマートフォンを長時間稼働させるため、熱暴走など耐久性に不安がある点は否めません。導入の際には「試してみる」という期待値で臨むのが最適だと考えます。

2.2.4 ビデオカメラ、デジタル一眼レフカメラ

 ビデオカメラ、デジタル一眼レフカメラをWebカメラとして利用する場合には、ほかのカメラとは一線を画す品質の映像を利用できます。筆者も今回の項目順にさまざまなデバイスやソフトウェアを試したのち、最終的にデジタル一眼レフカメラをWebカメラとして利用しています。

 ただし、スマートフォンと同じように長時間の撮影に適していない機材があります。また、カメラの映像を配信PCに取り込むにはHDMIキャプチャーカードが必要です。そのため、カメラ本体やレンズのコストも合わせると、導入コストはUSB接続Webカメラの比ではありません。一部のデジタル一眼レフカメラにはキャプチャーボード不要で映像出力が可能なものもありますが、解像度が著しく制限されるためせっかくの長所を活かせません。

 加えて、カメラが高画質になると、これまでは無視できていた部屋の光源や撮影用ライトも検討する必要が出てきます。まさに「沼」と言える様相を呈してくるため、最初からここに手を出すことはお勧めできません。

2.2.5 大事なこと(身だしなみ)

 さまざまなWebカメラについて紹介してきましたが、素材が良くなければ高画質な機材が無駄になってしまいます。髪の毛や髭の手入れ、化粧や服など、最低限の身だしなみを意識するようにしましょう。

2.3 マイク

 著者:山崎亘@ウフル

 ここでは、映像と同様にオンライン コミュニケーションでの重要な役割を持つ「音声」を取り込むマイクについて扱います。

2.3.1 前提

 マイクは用途に応じてさまざまなものがあります。この本はオンラインコミュニケーションを行う「オンラインコミュニティ」を担当するみなさん向けですので、用途もそれに限って説明します。

2.3.2 マイク選びの重要性

 オンラインコミュニティイベントに参加していてストレスになる原因には、以下のようなものがあります。

 ・映像が頻繁に途切れる(orカクカクする)

 ・映像の解像度が低い

 ・音声が頻繁に途切れる

 ・ノイズが多い

 ・音質が悪い

 これらの状態にあると、せっかく発信側が良いコンテンツを出していても受け手側に伝わりません。それどころかストレスがたまり、コンテンツでないところで満足度が下がってしまいます。これはもったいない。

 映像・音声共々ネットワークの状態に左右されるのは大きいのですが、ネットワークは別途工夫して改善してあるとして、機器で改善できることはすべきでしょう。

 本章のテーマは「マイク」ですので、音声について高品質であるマイクを選ぶ際のヒントをお届けします。

2.3.3 PC内蔵マイクを使わない理由

 PC(Mac含む。以降同様)にもマイクが備わっています。これをそのまま使うこともできますが、PCにはキーボードと冷却ファンも備わっています。ここからはノイズが盛大に発生しています。そしてそのノイズに発信側は気づきにくく、逆に受信側は容易に気づいてしまい、かつ非常に気になるものです。したがって、マイクは外付けを利用しましょう。

2.3.4 有線か無線か

 好みの問題ですが、私は有線をお勧めします。無線やBluetooth接続のヘッドセットの場合、若干の遅延や音質低下の可能性があります。また、イヤフォンでもあるように首を左右に振った場合の音の途切れなど接続問題も可能性としてはあります。さらにいうと、本番中の充電切れなどの可能性もあります。ヘッドセットで口の近くにマイクがあると、入力レベルが高くなりすぎて音割れの可能性も出てきます。いずれも「可能性」ですが、排除できるものは排除しておいた方が本番で安心です。

 有線の場合、オーディオインタフェース経由でPCに取り込む場合もありますが、USBのデジタル接続がよいでしょう。イヤフォンジャックのアナログ接続だと、ジャック部分でノイズが発生することもあります。

2.3.5 ダイナミックマイクかコンデンサーマイクか

 一時期、「高音質が良ければコンデンサーマイク一択」という雰囲気で、私もそれで「Blue Yeti」のマイクを購入して使っています(2020年5月購入で¥1.7万強くらい)。

図2.1: コンデンサーマイクのBlue Yeti

 このマイクを使って驚いたのは、高音質「過ぎる」ということでした。ここまで高音質なマイクは現在の私の用途では不要です。というのも、高音質過ぎてかなり多くのノイズ(PC本体のファン、エアコンの音、キーボードのタイプ音、マウスを動かす音など)を拾ってしまい、受け手側に伝わってしまうのです。

 対策として、デスクアームから衝撃吸収の器具経由でマイクを吊るすようにしました。さらに、別途説明するノイズキャンセリングのソフトを使って徹底的なノイズ対策をしています。

 また、コンデンサーマイクは、湿気や衝撃に弱く扱いが非常にセンシティブで値段も高めです。宅録で楽器演奏も録音する、ささやき声をうまく活かしてポッドキャストを録音するといった用途がなければ、「ダイナミックマイク」がコストパフォーマンスも高く良い選択だと最近は思っています。

2.3.6 指向性

 マイクの特性として「指向性」があります。私が購入したBlue Yetiのパッケージに分かりやすい図があったので引用して説明しましょう。

図2.2: Blue Yetiのパッケージに記載の指向性と用途

単一指向性(cardioid)

 マイクの正面に対して感度が良くなっています。オンラインコミュニティで使う目的に最も適していタイプです。この特性でない、あるいはこの特性が選べないマイクはやめましょう。

無指向性(omnidirectional)

 360° 全方位で同じ感度になっています。会議室の中央に置いて参加者全員の音を拾う、イベント全体の雰囲気を拾うといった用途のマイクです。

双指向性(bidirecctional)

 マイクの正面と反対側で感度が良くなっています。インタビューの聞き手と受け手の音を拾うとか、デュエットで歌うときなどに使うタイプです。

ステレオ(stereo)

 Blue Yetiが対応していて、このパッケージに載っているので一応説明しますが、その名の通り左右ステレオで音が拾えます。左右の広がりが感じられる合唱隊やドラムセットの前に置くなどでしょうか。

 これ以外にもありますが、最初の3つを覚えておけば十分でしょう。

2.3.7 意外なお勧め

 やりたいことや予算に応じて選ぶ、というのは別にマイクに限ったことではありません。好みもありますので、上記の情報を参考にしてください。最後に私が「これ、意外に悪くないよね」とお勧めする2つのマイクを紹介します。

サンワサプライ:MM-MCU01BK

 無指向性なのですが、部屋がそれほどうるさくなければ使えます。値段も安い割にオンライン会議の録画を見直してもそこそこよい音で驚いています。「なるべく安く抑えたい」という場合にこれを購入しておいて、もうちょっと良いマイクが使いたくなって購入した際にも、メインで使うマイクに何か不具合があった場合のバックアップになります。

iPhoneに付属のイヤフォンマイク (Apple EarPods)

 おそらく多くのiPhoneユーザーは多分箱に入れたままでしょう。これは意外と使えます。AirPodsよりも音はよいと判断するのは私だけではありません。これも追加費用が不要ですので、非常用に。ただし、Lightningコネクターではなく、イヤフォンジャック接続の3.5mmプラグの方です(PC/Macにつなぐので)。もうすでにないということであれば、「じゃんぱら」などのショップで中古のものが購入できます(2020年9月時点では¥980)。

図2.3: Apple EarPodsおよびサンワサプライのマイク

 最後はサブというかバックアップ用とちょっと変わったお勧めでしたが(機器は壊れるという前提が大事です)、オンライン会議を録音して聞き直すなど試行錯誤しながら、ご自分に合ったマイクをお選びください。

1. https://www.kinoni.com/

2. https://obs.camera/

試し読みはここまでです。
この続きは、製品版でお楽しみください。