まえがき
第1章 radiberry pi!について
第2章 最小構築手順
第3章 モニタレス/ケーブルレス
第4章 ストリーミング再生
第5章 ローカルファイル再生
第6章 FM波再生
第7章 ブラウザ制御
第8章 赤外線制御
第9章 Bluetooth出力
第10章 スケジュール実行
第11章 タイムテーブル再生
付録A 地域別民放ラジオ局リスト
付録B リモコン信号の記録(irrecord)失敗例
付録C radiberry pi!パラメータシート
あとがき
もし「今、すぐにラジオをつけて下さい」と言われたら、あなたは何をしますか?何をしたらいいか全く分からないという人は、案外多いのかもしれません。
'92年生まれの私の実感では、気づいたら身の周りからラジカセがなくなっていて、ラジオの聴取習慣がない限りラジオの実機に触れることは無くなっていることでしょう。もっと若い世代では、そもそも「ラジオって?」と聞き返されてしまうかもしれません。
物心付いたときからラジオに親しんできた身からすると、それはあまりに勿体無い。ラジオを聴く者にとっては、ラジオのための環境がこれほど整った時代は無いのです。
2010年代、ラジオというインフラは2000年代と比べ物にならないほど画期的な進化を遂げました。地上波と同じ内容をインターネットで同時配信するradikoの登場により、手元にラジオ機が無くてもパソコンやスマートフォンがあれば聴けるようになったのです。
本書は、多用途すぎるが故に持て余しがちな小型PCのraspberry piを使い、radikoよりも快適にラジオを再生する環境を構築することを目的として、その手順を解説した本です。
構築パターンの選び方次第ではラジオと関係なく、音楽再生に特化した環境の構築も可能です。ですが、せっかくラジオ聴取環境の構築が目的ですので、是非とも本書を参考に、raspberry piでラジオをつけてみて下さい。
・raspberry piのセットアップ手順
・radikoのストリーミング再生/タイムフリー再生
・raspberry pi内/外付けドライブ内に含まれるメディアファイルの再生
・ワンセグチューナーを用いたFM波の受信・音声再生
・ブラウザや赤外線リモコンによるコマンド実行
・再生コマンドの定期スケジュール実行
・Googleスプレッドシートによるタイムテーブル再生
・音声によるコマンド実行(スマートスピーカー化)
・podcastやラジオクラウド上の音声データ再生
・FM波以外(AM波・短波など)の電波受信/音声再生方法
・赤外線やBluetoothの規格・仕様
・DTMF音受信機能
本書の想定読者は以下に該当する方です。
raspberry piを買ったものの、持て余しているエンジニア
raspberry pi 3B/3B+を持っている方は特におすすめです。サーバPCとして使うための下準備が構築手順に含まれているため、進めるうちに何か別の使い道が浮かぶかもしれません。既に構築済のraspberry piのイメージがある場合、差分の手順のみの実施で構いません。ただし、構築した時期が古い場合、手順や画面が異なる可能性がありますのでご了承ください。
インドアなラジオ好き
本書で構築するラジオ環境は、特にインドアな方におすすめです。ブラウザ操作や赤外線リモコン操作など、家の中で使う場合に適した制御と組み合わせることにより、radikoアプリより早くかつ独自の機能を利用することが可能です。
物好き
サーバPCもラジオも、物好きとの相性が大変良いです1。どちらか片方に足を突っ込んでいる方は、是非本書でもう片方に足を突っ込んでみましょう。
度を超えたラジオマニア
度を超えたラジオマニアは、曜日・時間ごとに聞きたい番組が大体決まっているものです。2しかも、半年に一回の改編期を迎える度に更新されます。今回の改訂版では「タイムテーブル再生」という章を新たに設けており、これは我こそはラジオマニアだという方へ向けたものです。「ワイド番組の決まった曜日だけ聴きたい」「この時間になったら自動的にラジオが起動してほしい」というような、私自身あったら良いなあと思っていた機能を盛り込んでいます。
本書はraspberry piに対して、ラジオ聴取環境の構築手順を説明する書籍になります。ターミナル上のエディタ操作を回避し、キーボード操作で極力設定が行えるよう配慮していますが、Linux上でのターミナル操作は必要になります。これはraspberry piの環境構築にあたり一般的な内容ですので、不慣れな方は必要に応じて、raspberry piの操作方法を検索して補助的に参照いただくことを推奨致します。
また、本書の表紙に女の子のイラストが登場しますが、本の中身は構築手順を解説したプログラムや写真が大半を占めています。表紙の女の子が随所にイラストで説明してくれる書籍ではありませんのでご注意下さい。3
本書のサポートや正誤表などは、次のURLに掲載します。また、本書で取得するリソースを格納したGitHubレポジトリ4もご参照下さい。
https://docs.google.com/document/d/11s_mDQsi3OTMHAU40YXD9Kf61S5u0J_n6yCkwmwgWeg/edit?usp=sharing
本書に記載されている会社名、製品名などは、一般に各社の登録商標または商標、商品名です。会社名、製品名については、本文中では©、®、™マークなどは表示していません。
本書の内容は、2021年9月時点のものを元に作成しています。本書の記載内容は、筆者による調査や筆者の環境で実施した手順に基づいており、可能な限り正確に記載するよう努めていますが、正確性を保証するものではありません。また、本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた開発、製作、運用は、必ずご自身の責任と判断によって行って下さい。これらの情報による開発、製作、運用の結果について、著者はいかなる責任も負いません。
本書籍は、技術系同人誌即売会「技術書典4」で頒布されたものを底本としています。
本章ではまず、radiberry pi!とは何か、そしてradiberry pi!の構築手順を始める前に必要な準備について説明します。
まず、本書で構築する「radiberry pi!(ラジベリーパイ)」について説明します。
radiberry pi!とは、ラジオを聴くためにカスタマイズを行ったraspberry pi環境を指します。1 元々、raspberry piはmicroSDカードとmicroUSB電源で動く小型PCで、主にサーバ用途として使われることが多いPCです。
通常のPCと比べて大変安価なため、気軽に買い求めやすいPCとしてエンジニアに広く認知されました。「とりあえずひとつ買おう、何に使うかは後でいいや」と考えて買ったエンジニアも一定数いることでしょう。
そのようにして「とりあえず買った」raspberry piは、最後までどの用途に使うか思いつかず、気づいたら使わずじまいというケースが少なくありません。
家で眠ったまま、もしくはこれから購入するraspberry piをラジオ再生機として使ってみよう!というのが本書の狙いです。
本書で説明する構築手順は2章から11章までありますが、全ての章の手順が必要とは限りません。radiberry pi!の用途によって、不要な手順は読み飛ばすことが可能です。
第2章「最小構築手順」はどのような運用をする場合でも実施が必要な章ですが、それ以降についてはradiberry pi!をより快適に利用するための章なので、実施は任意です。
極端な例ですが、常にマウス・キーボードを接続し、ターミナルから操作するといった不便な運用で十分な場合は第2章「最小構築手順」だけで準備は完了です。
本書の構築手順と各章の対応は、下に示す図の通りです。「1.4 構築パターン」では、radiberry pi!の具体的な利用例と、その構築に必要な手順の関係を示します。
radiberry pi!では様々なデータが再生可能で、ラジオは地上波(FM波)とインターネットラジオの再生が可能です。本書では、再生対象を次の通りに分類しています。
・radiko再生(第4章「ストリーミング再生」)
─radikoで再生可能な民放ラジオ局を指します。
・ストリーミング再生(第4章「ストリーミング再生」)
─インターネット上でストリーミング放送が行われているURLを指します。
(コミュニティFM、BBC radio、J1FM等)
・ローカルファイル再生(第5章「ローカルファイル再生」)
─raspberry pi内、または外付けドライブに保存されている音声ファイルを指します。
・FM波再生(第6章「FM波再生」)
─各地域で受信可能なFM波を指します。AMラジオ局はFM補完放送により、FM波でも聴取可能となり2、2021年9月現在ラジオNIKKEIを除く全ての民放ラジオ局の放送はFM波で聴取可能です。各民放ラジオ局の周波数は、付録A「地域別民放ラジオ局リスト」を参照してください。3