はじめに
一、Web サイトにおけるGDPRとeプライバシー規則への対応方法
二、差押え~デジタルとアナログの狭間で~
三、法的情報の設計と実装に関する試論
四、RegTech の最前線 - 暗号資産による資金洗浄への対策
五、暗号資産取扱古物商について
六、IoT特許の勧め
七、法と技術の AI 交差点
八、モビリティとしての電動キックボードとMaaSの日本における可能性
九、Webサービス利用規約と著作権同一性保持権
あとがき
執筆者紹介
共同編集者紹介
技術の世界において、エンジニアがコンピューターを動作させるために組み上げるプログラムのことを「コード(Code)」と呼びます。
一方、法律の世界において、立法者が、国や組織の行動のルールとして作り上げる法令のことも「コード(Code)」と呼ばれます。
わたしたちが、技術者と法律家が互いの「コード」を理解するための場として、「技術と法律」と「Study Code」の2つのプラットフォームを立ち上げて、約2年が経ちました。
この間、世界では、人工知能によるプロファイリングや自律兵器に対する国際的な規制など、技術に対する法律による働きかけが続いています。
一方で、立法、法執行や企業経営を担う人々の技術に対する理解不足に起因するかのような事件を散見されるなど、技術者と法律家の相互理解は喫緊の社会課題となってきています。
本号が、今後のふたつの「コード」を担う人々の相互理解の一助となることを祈念し、ここに「技術と法律2019」を刊行します。
令和元年9月吉日
「技術と法律」共同編集代表
足立 昌聰
ソフトウェアエンジニア 三上 浩平
「Googleで検索すると、全く別の Webサイトで検索内容が関連する広告として表示された」という経験をする人は珍しくありません。現在、私たちのWeb上での行動は常に追跡されており、日本国内でそれを防ぐのはほぼ不可能と言って良いでしょう。一方、ヨーロッパにおいてこの動きに歯止めをかける動きが一般データ保護規則(General Data Protection Regulation、以下GDPR)とeプライバシー規則(ePrivacy Regulation)の施行です。
このGDPRは2018年5月25日から施行されています。GDPRに対応する必要があるケースは、EEA諸国(EU加盟国およびノルウェー、アイスランド、リヒテンシュタイン)に居住する人のデータを収集および加工をする場合です。日本国内に居住する人にのみサービスを提供する場合は対応する必要はありませんが、厳密に言えば、EEA諸国に住む日本人が日本のWebサービスを利用する場合も対応していなければなりません。
さらに、将来的にはeプライバシー規則も施行される予定です。eプライバシー規則は「プライバシーと電子コミュニケーションに関する規則」(The Privacy and Electronic Communications Regulations, PCER)という現状の規制を置き換えるもので、本来であればGDPRと同時に施行されるはずだったのですが、未だにドラフト版のままです。eプライバシー規則はGDPRを補完する形でクッキーの取り扱い等を詳細に規則化したものです。
今回は 2017 年 9 月から現在までイギリスでのフロントエンドエンジニアとしての経験を元に、EEA諸国向けに Web サイトやブログを運営する場合に、現状のプライバシーにおける問題点と、具体的にどのようなアクションを取れば良いかをクッキー対応を中心に解説します。
クッキーとは、Webブラウザが記憶している情報の名称およびテクノロジーそのものを指します。ユーザーがWebサイトを閲覧するとドメイン毎にその情報が保存され、リクエストを送るたびにその情報が送信されます。主な用途としては以下の用途が挙げられます。
●買い物かごの内容の記憶
●Webサービスへのログイン状態の維持
●Web解析およびユーザーのトラッキング
ヨーロッパでGDPRやeプライバシー規則が制定された背景として、プライバシーへの配慮が第一に挙げられます。例えば、あるユーザーが SNS にログインしたとしましょう(図1)。SNSはユーザーAのセッションIDを生成し保存、それをユーザーAに返します。このとき、ユーザーAのブラウザがそのセッションIDをクッキーとして保存します。このIDはログインを維持する目的で、毎回そのSNSにアクセスするたびにクッキーとして送信されます。
しかし、ユーザーがログアウトせずに同じブラウザで全く別のWebサイトを開いたとしましょう(図2)。そのWebサイトがそのSNSへのシェアボタンなどのウィジェットを持っていた場合、そのSNSへ別のリクエストがクッキーとともに送信されます。このとき、そのSNSはユーザーがそのページを訪れたことを記録できてしまいます。
また、この仕組みを広義に利用すると、具体的には以下のようなことが可能になります。
●Google検索したワードに関連した広告を、Googleアドセンスを利用した他のWebサイトやYouTube上で表示する
●Facebookボタンが設置されたWebサイトと似た内容の広告をFacebook上で広告として表示する
以上のような例からGDPRとeプライバシー規則では、ユーザーのプライバシーを守る目的でクッキーを使って個人情報を送信する際には同意を得なければならないとしています。