はじめに
第1章 カジュアル面談とは?
第2章 カジュアル面談のメリット
第3章 カジュアル面談をするときの注意点
求職者側のトリセツ
第4章 転職サイトについて
第5章 転職サイト以外での活動について
第6章 カジュアル面談を受ける前にやること
第7章 カジュアル面談の日程を決める
第8章 カジュアル面談のときに注意したいこと
第9章 終わった後に行うこと
会社側のトリセツ
第10章 開催する前に行うこと
第11章 カジュアル面談の日程を決める
第12章 カジュアル面談のときに注意したいこと
第13章 終わった後に行うこと
第14章 カジュアル面談から次の段階へ
第15章 オンライン会議ソフトと日程調整ソフト
第16章 カジュアル面談に関する寄稿
第17章 一求職者のカジュアル面談への思い
第18章 コラム:話をする分量って難しいね。
第19章 「カジュアル面談のトリセツ」の体験談
第20章 カジュアル面談?いいえ、新卒採用とリクルーターの話です
第21章 非IT企業で社内SE(内製要員)を採用するのに2年弱かかった話
第22章 カジュアル面談、はじめました
あとがき
当初は、転職経験が多い自分のノウハウみたいなものをアウトプットしようとしておりました。しかし、転職という題材は広い範囲になりやすいのと、対象が見えにくいため、執筆するモチベーションが上がりませんでした。そのため、ターゲットを狭めようと考えていました。そんな中、多くの会社で行っているカジュアル面談を数社受けているうちに、会社によっては面談が手探りな状態と感じました。
カジュアル面談という手法は成長過程にあり、カジュアル面談を受ける側はもちろん、カジュアル面談を行う会社側も含めて、知見が少ないのではないかと思います。
それならば、少しでもカジュアル面談を受けてきた自分の知見を共有できればと思い、本を作ることを考えました。
昔の日本は年功序列制度の時代でした。年功序列制度は会社が従業員の雇用を一生保障する代わりに(無期雇用契約)、従業員は会社が将来にわたって継続していく努力を行うことで、継続企業の前提(ゴーイング・コンサーン)を維持することになります。
そして、年功序列制度が形骸化する時代になり、エンジニアの世界ではシステムインテグレーションを請け負う会社1による業務請負契約も一般的に行われており、有期雇用契約(非正規雇用)の割合が増えていきました。
年功序列制度の時代では転職はネガティブなイメージが強く、転職することは今まで育ててきた「恩をあだで返す」という上司もいました。しかし、今の時代、転職することは普通の感覚に変わっていきました。
2020年からは働き方の変化もあり、テレワーク(リモートワーク)ができない会社は変化に弱いという認識も増え、さらに転職したいという人が増えています2。
転職がすべてを解決するならば良いのですが、転職先に入社して想定通りにならないこともあります。これを昔は「会社と相性が合わなかった」と言っていました。この相性が合わない問題こそが、転職に不安を感じる要因です。
なぜ、相性が合わないということが発生するのでしょうか?これは求人票やジョブディスクリプションだけでは、会社を把握することが難しいからです。
求人票は、職務内容、雇用形態、勤務地、待遇(給与)、福利厚生が簡潔に記載してあるだけです。またエンジニアにおいては求人票で人材募集することはないです。
ジョブディスクリプションは職務内容について詳細に記載があります。その職務の責任範囲、求められる資質、必須スキルと歓迎されるスキルを詳しく記載しています。つまり求人票は「待遇」の説明に重きを置き記載してあり、ジョブディスクリプションは「職務内容」を深堀りして記載されています。
また、ジョブディスクリプションでは会社の文化などに触れていることが多く、会社のよさをアピールするために多くのことが記載されています。
これを解消するために、新卒では「インターンシップ」というのがあります。求職側においてはインターンシップでは会社のことを知ることも重要ですが、業界や業種が合うかどうかを判断することにも利用されます。また、会社側はインターンシップを行うことで良い人材を早めに確保できるなどのメリットがあります。
このようなインターンシップは転職活動では行われていません。「体験入社」などを実施する会社もありますが、非常に少なく、体験入社をするためには現職を休まないといけないなどハードルが高いです。
そういった経緯から脚光を浴びるようになったのが、「カジュアル面談」です。カジュアル面談は「インターンシップ」や「体験入社」までもいかなくても、会社のことを知るために生まれたものであり、カジュアル面談とは具体的に説明すると「会社説明会」を個別に行うことで、カジュアル面談は求職者と会社の認識のズレをなくして相互理解を深めていく手法なのです。
エンジニアの世界ではカジュアル面談の認知が高まっていますが、比較新しい手法です。カジュアル面談という名前が登場したのは、Google Trendを参照すると2013年5月が最初です。
このような新しい手法は、広く普及しているとは言い切れません。そのため、カジュアル面談についての理解をしていない会社に対して求職者が「カジュアル面談を受けたあとにお祈りされた!」という話が出てくる背景には、カジュアル面談が理解されていない状況があると考えられます。また、このような話は噂として共有されやすく、ネガティブ情報が広まってしまうとほしい人材を逃すことにもなります。
また、逆に求職者も理解しているとも限りません。フランクに対応するのは良いのですが、カジュアルという文面からフランクすぎる対応をしてしまうのも考えものです。ただ、マナー講師のようにカジュアル面談という世界で新たなマナーを作り上げることは避けたいです。一定レベルのマナーは守りつつ、気軽に参加する場であるのが理想です。
カジュアル面談は新しい手法で、模索しながら会社側と求職者側が気軽に気持ちよく実施できることが理想です。この書籍が出ることで少しでもカジュアル面談のことを理解してくれる会社が増えることを願っています。
本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた運用は、必ずご自身の責任と判断によって行ってください。また、この書籍では「カジュアル面談について記載がある会社」や「転職サイト」について引用することがありますが、この書籍では転職斡旋を行うものではありません。これらの情報による運用の結果について、著者はいかなる責任も負いません。
この章では、カジュアル面談を再認識します。
最初に言ってしまうと、厳密なカジュアル面談の定義は存在しません。会社によってカジュアル面談の定義がかなり異なるのです。また、各々の求職者でも定義が異なっています。
また、よく聞く話で「カジュアル面談をしたらお祈りされた!」ということがあります。これは「カジュアル面談を受けたら実は面接だった」ということだったのです。ここで、カジュアル面談と面接は何が違うのか?そのあたりを確認していきましょう。
まず、このようなことが起きてしまう原因に、面接は英語でいうとInterviewなのですが、カジュアル面談を翻訳サイトで英語にするとCasual interviewと英訳され、カジュアル面接の意味合いになります。つまりカジュアル面談は「気軽に行う面接」と捉えてしまう会社が少なからずあるのではないでしょうか?このように、面接というフェーズは変わらず、その形をカジュアルに行うという、求職者にとってはあまりよろしくない認識でカジュアル面談が行われているのです。こういった経緯から認識の齟齬が発生しており、その結果としてカジュアル面談をしていたはずなのにお祈りされたという事象が発生してしまうのです。
そもそも、人材を採用するには採用まで持っていくプロセスが必要です。
マーケティングを用いた手法を用いた採用フェーズで非常にわかりやすいのは、Wantedly社が公開する「リクルートメント・マーケティング入門:あたらしい採用の常識 / Recruitment Marketing 101」1です。この資料の37ページにある「これからの採用」の図こそが、マーケティングを用いた手法になるのです。
面接と呼ばれるものは、この図ではRecruiting(リクルーティング)と書かれているところになります。それではカジュアル面談は、どこになるのでしょうか?答えはLead generation(リードジェネレーション)とLead Nurturing(リードナーチャリング)の両方になります。
ですが、現在の状況を俯瞰的に見てみると、カジュアル面談の定義が会社によって、Lead generationやLead NurturingやRecruitingだったりとものすごくバラバラなのです。Recruitingは採用活動となり完全にカジュアル面談とは異なるので、この書籍をお読みいただいたらぜひともカジュアル面談をRecruitingと認識している方は、Lead generationやLead Nurturingに変更して認識することを強く願います。
Recruitingをカジュアル面談としないことは理解できましたが、カジュアル面談はLead generationとLead Nurturingのどちらなのか?というのは、会社によって扱いが違いますし、Recruitingまで行くプロセスの前段階なら、どちらでも良いと筆者は考えます。
その理由を順に見ていきます。Lead generation、マーケティングの世界では「集客」や「潜在顧客」になります。これは広報活動みたいなもので会社説明会と捉えると良いです。Lead Nurturing、マーケティングの世界では、獲得した潜在顧客の購入意欲を高めるプロセスになります。採用における購入意欲を高めるとは、会社に対して興味や関心を持ってもらい転職意欲を促進させることが目的となります。それは、求職者へのフォローアップを行うことで実現されます。
このことから、できるだけ早く採用まで持っていきたい気持ちがある会社ではLead generationで終わらせるのはもったいないと思うので、Lead Nurturingでカジュアル面談を行ってくるでしょう。
今回引用している[図1.1これからの採用]は、海外ではRecruitment Marketing 101で広く言われているものです。また、手法自体はマーケティングの世界のDemand generationを元にしております。
Demand generationは需要創出と呼ばれており、Demand generationはB2Bの顧客獲得に用いられる手法で、Lead generation,Lead Nurturing,Lead qualification(リードクオリフィケーション)の3つのプロセスになっています。
Demand generationは1990年ぐらいから登場してきた手法ですが、B2Bの手法のため知る人ぞ知る手法で、これをB2Cの手法で見てみると、B2Cでは古典的な手法としてAIDMAや、最近だとAISASやAISCEASなどがあります。これらのモデルの違いは後半に集中しており、前半のAttention(認知)とInterest(興味)は共通しています。
そして、Demand generationと比較してみると、AttentionとLead generation、InterestとLead Nurturingは共通点が多く、会社説明会のプロセスはAttention、興味を持ってもらうプロセスはInterestと置き換えることができます。
また、[図1.1これからの採用]では、Lead qualificationがRecruitingに変わり、4つ目のプロセスであるEmployee success(エンプロイーサクセス)が追加されています。
このように、カジュアル面談を採用という世界で分析していくと、マーケティング手法である経営学の知識が出てきます。採用の世界も経営学と密接に結びついているので、もう少し理解を深めるなら経営学を少し学ぶのも良いでしょう。