はじめに
第1章 物語でわかるリモートワークとフルフレックス
第2章 真面目系クズに捧げる!フルフレックス・フルリモートで自分を甘やかす虎の巻
第3章 リモートワークのとある一日
第4章 リモートワークで子育てと仕事を“両立”する方法
第5章 会社でやりたいことをやるための技術
第6章 キャリアブランクから楽しくカムバックする技術
第7章 VUCA時代を生き抜く力~新たな環境に早期に適応する技術~
第8章 人生を少しでもイージーにする技術
第9章 呼吸と睡眠からはじめるパフォーマンス改善の技術
第10章 エンジニアのための家政のすゝめ
第11章 英語学習 アンチパターン集
第12章 正確に相手に伝わる文章を書く技術
あとがき
この技術書は、株式会社マツリカ(以降、マツリカと表記)に所属する有志たちが集まって執筆・制作した本です。元々は技術同人誌として制作し、再編されました。
2019年にシリーズBラウンドで総額5億円を調達したマツリカは『フルリモート可・フルフレックス』という環境で結果を出してきました。
・「リモートワークはサボるでしょ」
・「リモートワークでコミュニケーションがうまくいくはずない」
・「コアタイムのないフレックス制度でどうやって働くんだ」
という世間のおおよその意見を横目に、所属するメンバーは『より楽しく働く方法』を日々自分なりに模索してやっています。
『楽しく働く』とは決して『楽だけをして働く』ことではありません。『フルリモート可・フルフレックス』という自由は、自分で自分を律する精神が必要です。
2021年という時代になってこれまで以上に『働き方』『キャリア形成』『テクノロジー』で変化が訪れるでしょう。
本書は、自由な環境で働いてきた私達の『より楽しく働く取り組み』をこの本にぎゅっと詰め込みました。『より楽しく働く取り組み』をテーマにしているため、働き方や生き方に関するさまざまな分野が詰まっています。どの章から読んでも問題ありません。ぜひ、気になったところから読んでください。
この本を手に取ってくださったあなたが『より楽しく働く』未来を描けたら幸いです。
あなたの知りたいことが見つかったら、ぜひお手にとって見てください。
・リモートワークってどんなものか気になる。現実をみてみたい人
・「リモートワークやフルフレックスってサボったりしないの?」と思っている人
・もっと自分の生産性を上げられる!と思っているけどやり方がわからない人
・『主婦として子育てをしていたけどやっぱり働きたい!子育ても両立するぞ』という道を選んでいきたい人
・所属している会社でうまくやりたいことを実現できてない人
・変化に強く有りたいと思っている人
・人生がハードモードでつらい人
・英語能力がうまく向上せず悩んでいる人
・わかりやすい文章を書きたい人
本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた開発、製作、運用・活動は、必ずご自身の責任と判断によって行ってください。これらの情報による開発、製作、運用・活動の結果について、著者はいかなる責任も負いません。
『自由は、自ら取りに行くものだ』
里元和久(りもとかずひさ)は自由を求めた。
彼がこれまで経験してきた『働く』とは『毎朝満員電車にカバンとスーツ姿で突撃し、電車のドアが閉まるまでグイグイと尻で人を押し込む戦争に始まり、それを夜また自宅最寄り駅までする』というものだ。会社にはしっかり9時間(もしくはそれ以上)滞在する。組織にとってはそれがもっとも効率的だ。同じ場所で仕事をするのだから、コミュニケーションは高速になる。いつでも密なコミュニケーションが取れる組織は強い。それに、上司としてもメンバーを管理するのも簡単だ。同じ執務室にいる部下の様子を見ることができる。
大雪で公共交通機関がマヒすると予測されていても。台風で翌日の電車が運行停止になると発表されていても。前日深夜作業で勤務時間がズレていても。朝少しだけお腹が痛い日も。
彼はこれまで、どのケースであっても会社に通勤した。どうあがいても電車が動かないであろう日は、前日オフィス近くで宿泊した。
里元和久がその『不自由』さに気づくのには少しだけ時間がかかった。常識だったから。都内で働く多くの人は、その世界観を疑わない。会社でしかできない仕事がたくさんある。そう思っていた。
違うだろう。同じ場所で仕事していても、コミュニケーションは本当に高速か?メールやチャットで外部と取引しているならそこまで大きな差はないのではないか。
同じ執務室で働いていても、コミュニケーションを取るべき人と密にコミュニケーションが本当に取れているか?
上司は部下を管理するために、同じ執務室にいなければならない理由はあるのか?上司だって忙しくてほとんど部下を見れていないのではないか。ならば、管理とは一体なんの管理のことだ。同じ場所にいる必要がほんとうにあるのか。
電車が動かないとわかっていても、それでもやらなければならない『社会インフラ』などの人たちに現地にいち早くたどり着いてもらうためにも、公共交通機関がマヒするほどの天災時は家から出ない安全を取る選択を、せめて取れないのか。
里元和久にとって自由とは、選択できることだと気づいた。彼にとって『自由に働く』とは『働き方に選択肢がある』ことだった。
-◆◆◆-
「今日入社する里元和久(りもとかずひさ)です。宜しくおねがいします!」
窓の外から聞こえる車両が線路を揺らす音。山手線のアナウンス。発車のベルが里元の自己紹介と重なった。
ここは五反田駅から徒歩5分、マツリカという会社だ。ここ五反田はオフィス街であり、歓楽街であり、いくつかの大学キャンパスもある街。昼も夜も人で賑わい、この街はずっと明るいまま世界が回っている。
その山手線五反田駅の外回り側から見える、ひときわギラギラと光る『MANBOO+PLUS!』の看板。その横にあるビルこそが、里元がこれからお世話になるオフィス。
――とはじめは思っていた。
入社2日目、里元は自分の耳を疑った。
「この会社自体のオリエンテーションは終わったし、明日からとくにオフィスに来てもらう必要はないよ」
里元はいきなり、リモートワークの提案を受けたのだった。
「もちろん来てもらってもいいけど……チームメンバーの人もリモートワークしているし、リーダーは地方からフルリモートだし。オフィスでしかできないことってほとんどないから。君に任せるね」
マツリカでは、職種に限らず誰でも自由にリモートワークができる。就業規則的には、リモートワーク可・フルフレックス制度になっている。『働く場所や時間は、あなた自身に任せます』ということだ。
『自分がもっとも生産性の向上する場所、時間で働けば一番成果が出るよね』という意図がある。
このような形式を取る企業は増えているというけれど、彼のキャリア上でははじめての経験となる。元々、里元としても自由な働き方が性に合っていると思って、少しずつ努力を重ねて環境を変えてきた。
マツリカ入社前から、リモートワークができることは知っていたけれど、この速度は予想以上だった。
入社初日の昼はオリエンテーションと開発環境の準備に勤しみ、なんとか準備を終えた。帰宅後、明日以降を家で快適に仕事するための環境をふりかえってみた。
元々、家でも作業していたのである程度のデスク環境は揃っている。デスク、椅子、モニターなどだ。会社支給のMacBook Proも合わせると、仕事するだけならそれなりに整っているように感じる。
ただ、リモートワークとなると少し足りない設備もあることに気づく。
これは会社の会議体にもよるけれど、ほとんどの場合『通話による会議』、オンラインミーティングが発生するだろう。つまり、通話するための設備とツールが必要だ。
設備/ツール | 用途 |
Slack | チャット、ログ検索、ビデオ会議、アプリ連携などさまざまな機能を備えたツール |
Zoom | ビデオ会議サービス。大人数での会議にも強い。デバイスを問わず使用できる |
ヘッドホン/イヤホン | 通話するときあったほうが聞こえやすい。また、場所を問わず通話できる |
マイク | イヤホンについているものでもよい |
Slackは、組織標準のコミュニケーションツールとして機能していた。Zoomもビデオ会議が多い組織では広く採用されているらしい。これまで使ってきたメンバーが言うには「Slackも通話できるけど、Zoomは音声がクリアだし、接続も安定している。それに同時通話人数もslackよりも多い」という利点があるとか。
まずはこれで最低限の準備は完了としよう。はじめてのリモートワークを心待ちにしながら、作業部屋をあとにした。