多くの人は、日常生活で医薬品の専門的な知識を得る機会は少なく、CMや電車の広告、マスメディアやインターネット、SNSからの情報が大半を占めているのが現状だと思います。
あるいは、具合が悪くなったときに病院に行き、医師の診察を受けて、処方せんをもらって、薬局で医薬品を出してもらう際に、ざっくりとした説明を受ける場合もあるでしょう。
しかし、病院から処方される薬の多さに驚いたり、そもそもこれは必要な薬なのか?なんて思ったことはありませんか?週刊誌やワイドショーでは、薬が多いと逆に耐性ができる、なんて言ってたりしたなあ、とか。
ただでさえ忙しい日常生活。病院に行く時間はなかなか確保できないものです。ひょっとしたら、ドラッグストアに行ってCMで見たことのある医薬品を買って対処した、なんてことも一度や二度はあるのではないでしょうか?
ドラッグストアは大抵の場合年中無休。夜遅くまで開いていて、社会人の頼れる味方です。しかし、自分で自分の症状に合った薬を決めないといけません。いざ具合を悪くしたとき、薬の多さに迷い、どれを買えばいいかわからない。ただでさえ具合が悪いのに、「あなたの風邪はどこから?」っていわれても全部だよ!みたいな文句を垂れながら、結局はCMで見たからとか、いつも買ってる薬をとりあえず買っておこう、という形に収まって中々症状が改善しない、なんてこともあると思います。
では、そもそもどのような症状のときは病院に行った方が早いのでしょうか?
どこまでならドラッグストアで買ったもので対応できるのでしょうか?
どんな薬なら今の症状を緩和して、病院に行けないときに対応できるのでしょうか?
そんなとき役に立つのは、本書で解説する医薬品の知識です。生きている以上、我々は絶対に病気になります。医薬品の知識は、人類の長い歴史の中で培われた生存戦略が結実したものです。実生活で役に立たないわけがありません。
この本を作ることになったきっかけは、企業向けの医薬品相談サービスを筆者の薬局ではじめたことです。我々薬剤師は病院の医薬品も、ドラッグストアの医薬品も、日用品も、衛生用品についても科学的な知識のもと、正確に取り扱うことができます。
筆者は、オフィス街で薬局を4年間運営していました1。当時はお客様もビジネスパーソンが多かったので、企業の保健室代わりに使ってもらいたいと思い、医薬品相談サービスをはじめました。
多くの方のさまざまなお悩みをお伺いしました。その結果、共通していたのが、正しい知識に触れる機会が少ないため、都度自分で調べたり、人から聞いた情報で判断されていることが多かったことです。中には、薬学的に危険な飲み方であったり、効果を得られない(もったいない)飲み方をされていたりするケースもありました。
電車の広告やインターネットの広告で効果があるとされているものも、もとのデータをたどるとそんなことは書かれていなかったり、科学知識があれば効果がないとすぐ見抜けたりするものもあります。
自己責任社会、つまり情報格差社会において、健康情報への「質のいい」アクセスも自分で確保しなければならなくなりつつあります。基礎を学んで、安心して相談できる薬剤師や医師を見つけられる一助になれば幸いです。
本書の構成は、第1章で医薬品の基本的な飲み方や注意点のおさらいをします。第2章では、病院に行くほうがいいのか、薬局で済ませられるのか、その見極め方について解説します。第3章では、自分で買える市販薬の成分を解説し、第4章でもっと高度な利用方法として薬局零売(やっきょくれいばい)まで解説します。薬局零売でも対応できない専門治療に関して、第5章で医療機関との関わり方を案内して、第6章で健康診断や血液検査の数値と慢性疾患へのアプローチ方法を解説して、セルフメディケーションと専門治療の橋渡しができるようにしています。
商業出版にあたり、新規で第7章を追加しました。倒れては困る人向けに、予防的介入について、どのように行っていくかをまとめています。第6章と第7章は共通する内容もあるため、大切なことが複数回出てくることがございますが、とても大切なことなので繰り返し解説しています。
この本は薬剤師が書いており、クスリによるサバイバル術に特化していますので、どうしてもクスリでなんとかしがちです。もちろん、すべてクスリでどうにかできるわけではないのですが、将来のビジネス損失を少しでも抑えるために、薬剤師としてどこまで書けるか??を最大のテーマ2としています。
楽しくてワクワクする、クスリを使った現代サバイバル本をどうぞお楽しみください。
本書はPEAKSのクラウドファンディング企画をリファインして、インプレスNextPublishing山城様のご協力を得て商業出版にたどり着きました。同人誌版をキャッチアップして拾い上げていただいたPEAKSの皆様と山城様には、大変感謝しております。商業出版バージョンの本書では、各章の加筆修正だけではなく、追加コンテンツとして第7章「倒れたら困る立場の方が知るべき7つのチェック項目」を追加しております。
加えて、同人誌版の校正と第一章の文面編集には@sasameyuki氏と@shioming氏とそのご友人の皆様にご協力いただきました。校正からレイアウト、印刷までご助言いただいて、同人畑をはじめて耕す身としては大変心強く、この場をお借りして感謝致します。お陰様で、お薬関係の本を出すことがライフワークになり、同人活動ができる薬局まで作ることになりました。妻・由布子にも文章校正でとても助けられました。こどもたちの寝かしつけが終わったあとの貴重な時間を校正に割いていただき、感謝しております。
表紙絵は鍋料理氏に依頼いたしました。誠実に、爽やかにクスリのサポートをしてくれる薬剤師3を描いてもらいました。
本書に記載されている会社名、製品名などは、一般に各社の登録商標または商標、商品名です。会社名、製品名については、本文中では©、®、™マークなどは表示していません。
この章では、医薬品の知っておきたい基礎知識を解説します。医薬品は科学の結晶そのものです。薬の成分だけではなく、その成分を引き出すための研究が積み重ねられ、用法・用量を守れば安全に服用できるように作られています。成分の濃度や薬の形など、それぞれに意味があり、想定とは違う使い方をすることで、どのようなことが起きてしまうのかも、理屈を知っていると予測できるようになるでしょう。
おそらく医薬品といえば飲み薬を想像される方が多いのではないでしょうか。大半の方はすでに飲み薬を人生で何度も飲んでいると思いますが、薬の飲み方(服用方法)についていちいち考えることは少ないかもしれません。そこで、まずは飲み方を知ることからはじめましょう。
一番メジャーな飲み方である「食後」は、食後30分までに服用することです。胃の中を荒らしてしまうような医薬品(イブプロフェンのような一部の解熱鎮痛剤など)の副作用を抑えることができます。薬の種類によっては、脂に溶けやすく、食後に飲むことで吸収がよくなるもの1もあります。
「食前」に服用する場合はおおよそ2通りで、ひとつは胃粘膜を保護したり、糖分の吸収を遅らせたりする目的で先んじて医薬品を胃腸に入れて効果を発揮させるため。もうひとつは、成分によっては吸収がよくなって効き目が強くなってしまうことを防ぐためです。
「食間」は、食事と食事の間に服用する(食前食後2時間後の空腹時)方法です。漢方薬でよく使われます。ありがちな間違いとして、食事中に服用されることもありますが、漢方薬に含まれる成分によっては強く効果が出てしまうことがあります2のでご注意ください。
「寝る前」には2種類あり、寝る30分くらい前でよいものと、一部の睡眠導入剤など、持続時間が短いために寝る直前に服用するものがあります。
1日3回服用するものは、薬の作用時間が短いので3回服用するようになっています。実践的な話として、1日3回タイプのものは4〜6時間空ければ連続で服用することができます(明確に食後服用など、タイミングを指定されているものは除きます)。
ただし、医薬品によっては1日量が決められているものもあるので、症状と使用目的にあっているかどうかは都度確認する必要があります。31日に服用する回数が少ないものは作用時間が長くて便利なものが多いですし、なかには週1回でよいものも存在します。
しかし、体内から排出される時間も長くなってしまうので、副作用が起きたときは、薬が身体から抜けるまで時間がかかります。そうすると副作用が起こってしまった場合、その時間も長くなってしまうというデメリットもあります。
花粉症の薬のように、継続して服用したほうが効果を示しやすいものもあります。花粉症の薬の場合だと、体内にある「受容体」と呼ばれるスイッチのうち、アレルギーを引き起こすもの(ヒスタミンH1受容体)を、花粉より先にブロックすることで、アレルギーを生じさせないようにします。薬も時間とともに分解されてしまうため、定期的に服用すると常にブロックすることができ、花粉症をコントロールすることができます。
細菌性の感染症治療で服用する抗菌薬の場合、決められたタイミングで服用することで効果を引き出せるものと、高用量を一度に使って効果を引き出せるものがあります。抗菌剤は不規則に使ったり、指示された量より低用量で使うと、抗菌薬が効かない菌(耐性菌)を作りかねない4ので、原則指示どおりに飲み切ることが必要です。
耐性菌が生じると、抗菌薬の選択の範囲が狭まってしまい、重症化しやすくなります。感染症対策に大きな影を落としてしまうので、抗菌薬はしっかり飲みきりましょう。
「頓服(とんぷく)」という使用方法もあります。症状が起きたそのときだけ使うもので、基本的に医師や薬剤師から使い時を説明されます。頭痛時、発熱時、発作時、落ち着かないときなど、毎日定期的に使わない飲み薬は、指示されたタイミングで「頓服」として服用します。頓服薬は連用を想定しないので、すぐになくなってしまうと感じている場合は症状に合っていないことがあります。医師、薬剤師と治療方針を話し合ったほうがよいです。
点眼薬は1滴で十分です。1滴は約40μLで、眼自体には30μLくらいしか入らないので、2滴(80μL)入れてしまうと完全にあふれてしまい、これでは無駄撃ちです。
そのため、2種類の点眼薬を使う際、どちらの点眼薬の治療効果も出すために、5分間程度あけたほうがよいです。たいてい点眼薬の容器は5mLくらいなので、およそ125回分さすことができます。1日4回であれば、両眼の使用で2週間程度の量です。点眼の順番に関しては、医師と薬剤師に確認しておきましょう。大抵は水性点眼剤→懸濁性点眼剤→ゲル化性点眼剤の順番で使用することが多いです。
また、コンタクトレンズを装着した状態では、そのまま点眼することを推奨されないケースがあります。2ウィーク以上のソフトコンタクトレンズかつ、コンタクトレンズの分類がⅢとⅣ(イオン性、外箱や添付文書に記載されています)の場合は、塩化ベンザルコニウムという防腐剤がソフトコンタクトレンズに吸着しやすくなり、炎症を起こしやすくなるとされています。2週間以上使い続けるのであれば、点眼液の防腐剤について医師、薬剤師と相談してください。ちなみに、ハードコンタクトレンズも塩化ベンザルコニウムが吸着しないので、装着したまま点眼しても大丈夫です。
実際問題、点眼メーカーに問い合わせたところ、炎症を起こしやすくなるとされているのはウサギを使った試験であり、塩化ベンザルコニウムでの副作用の報告は上がっていないようです。
点鼻薬は鼻炎や鼻づまりがひどいときに使います。成分によって使用回数が異なるので、都度確認が必要です。点鼻したら液が垂れてくるので、点鼻液を吸い上げるように使うと、奧まで届きやすいです。成分によっては、使わないで置いておくと流動性が悪くなって出にくくなるため、よく振ってから点鼻しましょう。
塗り薬は湿疹(赤み)ができていたり、かぶれていたり、傷ついている患部に使用しますが、ゴシゴシ擦るように使うことはほとんどありません。強く擦り込むとなんとなく早く効きそうなイメージがあるかもしれませんが、皮膚はでこぼこしており、シワの奥に塗り薬がたまり、表面の塗り薬の量が少なくなってしまうので、不均等になってしまいます。患部にやさしく載せるように使うとよいでしょう。塗る量については、人差し指の第一関節までの塗り薬の量(約0.5g)で両手のひら分カバーできます。
余談ですが、塗り薬の種類で、クリームのものは白いものがほとんどで、塗ったときにも白く残ったままであることが多いです。しかし、時間が経つと水分が蒸発して透明になりますので、実際は塗り込んで徐々に透明になってくるように見えても、塗り薬が浸透しているのではなく、塗り薬の水分が蒸発して透明になっているだけです。ただし、筋肉痛などで使われる痛み止めの塗り薬は、擦り込んで使うこともあります。
湿布は肩こりや筋肉痛で痛いところに貼りますが、ハサミで切れ込みを入れると立体的に貼りやすくなり、貼り心地が改善します。メーカーによって貼り心地がさまざまなので、合わない場合は他のメーカーを使うと、意外といい感じに貼れたりします。
一日中貼っているとかぶれることがあります。半日貼っていれば成分の9割は皮膚に移行していますので、敏感肌の方は半日経った後に剥がしてもOKです。それでもかぶれる場合は、保湿剤を使用して、保湿剤が乾いてから貼り直しましょう。
体内への移行も成分の1割程度であることが多いので、新しい湿布を貼り直してもOKです。ただし、大量に貼ってしまうと体内への移行量が腎臓や胃を痛める量に達するため、過剰な使用は控えましょう。たとえば、トライアスロン後に湿布を貼りすぎてしまい、腎臓を傷めるケースがあります。
これもいたる所で言われているお話ですが、薬を飲むのに適したものは水です。具体的にいえば水道水か軟水のミネラルウォーターです。ミネラルウォーターのラベルには軟水か硬水かが書かれていますので、参考にしてください。
多めの水で飲むと、薬の溶ける速度がやや早くなるので、頭痛がするときに大活躍するロキソニンやバファリンといった解熱鎮痛剤を頓服で服用するときに有効です。大抵の薬は体温が37度前後だと10分以内に溶けるように設計されています。そのため、キンキンに冷えた水ではなく、白湯(ぬるま湯)で服用すると、さらに早く薬が溶けます。
なお、市販されている医薬品で早く効くと謳われているものは、一秒でも早く溶ければ「早く効く」といえるので謳っているものもあります。実際は、胃腸でお薬が溶けて小腸に吸収されて全身に行き渡るまで30分ほどかかります。
一緒に飲んでいはいけないものとして、牛乳、高硬度のミネラルウォーター、アルコール、カフェイン含有飲料があげられます。
まず、牛乳や高硬度のミネラルウォーターはカルシウムやマグネシウムといったイオンが含まれており、薬によってはイオンと結合して、体内に吸収しづらい化合物に変化します。アルコールと薬との併用は、副作用増強リスクが高まりますので、原則、薬を服用したい場合はアルコールの摂取を控えましょう。また、オレンジジュースやりんごジュースと一緒に服用すると吸収が減ってしまう薬もあります。花粉症の方にはおなじみのアレグラ(フェキソフェナジン)はフルーツジュースと一緒に飲むと作用が弱まり、花粉症をコントロールしづらくなるので注意が必要5です。ちなみに、アレグラは焼肉のような高脂肪食で作用が減弱することもあります。これは罠みたいなものです。
カフェイン含有の飲料(コーヒー、お茶、紅茶、エナジードリンクなど)は市販薬に含まれることがあるエフェドリンという成分と飲み合わせが悪く、副作用を起こしやすくなります。カフェインは他にも飲み合わせが悪いことがあるので、あらかじめ併用可能かどうかを薬剤師に相談してもよいでしょう。
世の中に出ている医薬品は、有効性と安全性が法律と研究データによって担保されています。医薬品の成分は人体に影響をもたらすことを前提に作られていますが、そもそも「薬が効く」とはどういうことでしょうか。
化学物質を服用し、狙った場所で反応が起こると、身体の中のいたるところにある「受容体」というさまざまな生体反応を起こすスイッチが制御されたり、さまざまな生体中の反応を媒介する酵素が制御されたり、傷ついた細胞に接着して防御したりします。このことを「作用」といいます。作用の結果として症状の治療、緩和が成され、「薬が効いている」ということになります。このことを「効能」であったり「効果」と呼びます。製薬会社はこの効能と効果を起こす作用を引き出すため、日々薬を開発しているのです。
どこかで一度は「副作用」という言葉を耳にしたことはあると思います。多くはネガティブな文脈で登場し、副作用は一般的に医薬品の使用者に有害で、不利益をもたらすものと思われる方が多いと思います。
たとえば、「花粉症でくしゃみが止まらないとき、抗アレルギー薬を服用すると、眠くなる副作用で車の運転ができなくなるので、運転は控えましょう」などといった具合です。
実際、購入した薬の注意書きには「こういった症状が出た場合は副作用の可能性があるので、直ちに服用を中止」といったような物騒な文言が書かれていたり、「医薬品副作用被害救済制度」といった、副作用によって起こる被害を救済する制度があったりします。
ところで、「副作用」の対となる言葉は何かといいますと、「主作用」となります。主作用とは、先にも説明したとおり、医薬品を用いるときに目的とする作用のことです。整腸薬であれば便秘や下痢の解消、解熱鎮痛薬であれば熱や痛みの緩和などです。
つまり、主作用の対となる副作用という言葉は、有害な作用であろうが、そうでなかろうが、目的とする作用以外すべてを含むことになります。たとえば、「花粉症でくしゃみが止まらないとき、抗アレルギー薬を服用すると、(人によっては)とても気持ちよく眠れる」ということもありえます。この場合、「気持ちよく眠れる」部分は有害ではありませんが、目的としている作用ではないため、副作用となります。しかし、この眠気を目的とした抗アレルギー薬(製品名:ドリエル)もあります。その場合、主作用は不眠の症状の緩和となり、アレルギーを抑える作用は副作用となります。
先述のような事例にもあるように、主作用と副作用ははっきりと分けられることのほうが少なく、常に表裏一体です。たとえば、血糖値が高い方が血糖降下薬を飲んだ際、薬が効き過ぎて低血糖になってしまった場合も、そこまで血糖値を下げることは目的としていないので、副作用として扱われます。
医薬品を利用するときには、主作用と副作用のリスクコントロールがとても重要なポイントとなってきます。副作用をコントロールしつつ、主作用で症状の緩和、治療を安全に行うことが薬物治療の基本です。状況によっては、治療を優先するため、ある程度の副作用は許容をする場合6もあります。
また、医薬品の種類によってもリスクの大きさは異なります。比較的穏やかな作用であったり、リスクのコントロールが容易なものはドラッグストアなどで一般用医薬品(OTC)として販売されます。逆にリスクのコントロールが難しかったり、効き目が劇的でありすぎるものなどは、病院の処方せんなしには利用できない処方せん医薬品として、医師の指示の元、薬剤師が調剤することになります。
副作用のリスクをコントロールする指標として、医薬品には血中濃度という考え方があり、有効濃度と副作用濃度がそれぞれ存在します。
有効濃度を維持できないと、飲んでいてもあまり意味がありません。逆に、過量投与によって、血中濃度を高めてしまうほど、有効濃度域を越えて副作用濃度域に移行して、副作用リスクが大きくなります。
医薬品の副作用は過量投与による副作用濃度で発現することが大半です。薬によっては、有効濃度と副作用濃度が近い位置にあることもあり、このような薬の場合は採血して、慎重に有効濃度を維持する専門療法が実施されます。
医薬品を構成する成分そのものにアレルギーを持っていたり、過量投与で副作用濃度まで血中濃度が上がったり、腎臓や肝臓機能が低くなってしまった結果、血中濃度が上がってしまうことで副作用が起きます。身体に赤みが出てくる薬疹(やくしん)や肝臓を痛めてしまう肝炎はアレルギー症状ですが、下痢や吐き気、めまい、眠気、震え、心拍数の変化などは、薬効と表裏一体の場合が多いです。
たとえば、花粉症で使う医薬品の副作用に眠気がありますが、鼻や目のヒスタミンH1受容体を阻害して薬効が出るだけではなく、中枢移行性が比較的高く、脳内のヒスタミンH1受容体も阻害してしまうため、眠気が生じています。脳内のヒスタミンH1受容体は花粉症とはまったく関係がなく、集中力の維持や作業効率といった覚醒に影響しているとされています。
他にも、抗菌薬が効きすぎて常在菌も死滅して下痢になったり、血糖値を下げる薬を飲んで効きすぎて低血糖になってしまったり、喘息の薬が効きすぎて心臓がバクバクしたりすることも副作用です。
薬の過量服用、食べ合わせ、飲み合わせ、肝臓機能、腎臓機能の組み合わせでリスクが大きく変動します。たいていは濃度が上がっていることから副作用が生じますので、薬を飲んで不具合が生じた場合は、上記の要素を医師、薬剤師が確認して中断、代替案を提示します。
医薬品は主作用と副作用のリスクコントロールがとても重要なポイントです。副作用をコントロールしつつ、主作用で症状の緩和、治療を安全に行うことが求められます。
日本に出回っている医薬品には、大まかに分けて「西洋薬」と「漢方薬」と呼ばれるものがあります。
西洋薬は、近代の医療において標準になっている西洋医学で利用される薬です。ロキソニンやアレグラといった横文字の医薬品は、たいていがそれ7です。西洋薬の成分は人工的に作られ、大半は単一の成分で構成されており、ひとつの薬のターゲットはある程度狭い範囲の症状になります。
そのため、西洋薬は症状に合わせて複数組み合わせて処方されますので、病院で処方せんがでる場合はやたらと錠剤が多い状況が生み出されます。
対する「漢方薬」は、中国発祥の医学、中医学で用いられる薬です。文明開化以前、元々日本にあったのはこちらの薬です。歴史的に有用とされる植物や鉱物などを「生薬」として調合し、組み合わせたものを薬として処方することが多いです。そのため、ひとつの漢方薬で広い範囲の症状をターゲットにしていることが多く、複数の症状を単一の漢方薬でカバーするケースもあります。調剤薬局やドラッグストアで手に入るツムラやクラシエといったメーカーの漢方薬は生薬がそのまま入っているわけではなく、成分を抽出したエキスを粉末に加工したものになります。
医薬品とサプリメントの違いは、医薬品及び医薬部外品と食品とで明確に線引きがなされています。
医薬品には、処方せん医薬品と処方せん以外の医療用医薬品、一般用医薬品という分類があり、治療を目的に使用されます(後述)。一般用医薬品(OTC)はドラッグストアで買える医薬品です。また、医薬部外品は穏やかに症状を改善させることを目的とした医薬品です。効果が穏やかなため特別な許可なく販売でき、コンビニでもよく売っています。
サプリメントは一見似たように見えるかもしれませんが、健康食品という「食品」に分類されます。ただの食品であるため、当然治療効果があるのではなく、病気が治るという書き方もされません。日常生活で不足している栄養素を補給するためであったり、なんらかのポジティブな結果をもとに健康をうたっている商品が多いのは、効能効果をうたった場合、薬機法違反になるからです。
医薬品は治療や症状緩和を目的に作られており、西洋薬も漢方薬も漏れなく、サプリメントとは違い、人体に対して有効であるデータを元に医薬品として承認されています。そのため、主作用と副作用によって処方せんが必要だったり、薬剤師の対面販売が必要だったりします。
当然、生物は生きていれば栄養を必要としますので、サプリメントによって欠けている栄養を補うことで、健康問題が解決する場合もあります。しかし、健康問題の種類によっては、サプリメントではなく、医薬品が適正であることもあります。保険が適応される標準治療(科学的根拠が確立した治療)がよい選択肢であることもあるため、サプリメントをきっかけに、医師、薬剤師と相談しながら健康問題の解決にあたるとよいでしょう。
いわゆる病院の薬は「医療用医薬品」と分類され、さらにそこから「処方せん医薬品」と「処方せん以外の医療用医薬品」に分類されます。
どちらも医療用として医師、歯科医師の処方に基づいて使うことができますが、「処方せん以外の医療用医薬品」は処方せんがなくても使用できるケースもあります(後述、第4章参照)。
「医療用医薬品」は使用用途の幅が広く、医師、歯科医師の裁量によって医薬品の用量の増減や、特殊な使用方法8も可能です。その反面、症状の変化や副作用などのリスクの程度が高く、専門家によるモニタリングが必要です。
また、「市販薬」は副作用や飲み合わせなどのリスクの程度に応じて、「第1類医薬品」、「第2類医薬品」、「第3類医薬品」の3つのグループに分類されています。「第1類医薬品」は副作用や飲み合わせなどのリスクから、特に注意を要するので、薬剤師による情報提供が義務付けられています(痛み止めのロキソニンや胃薬のガスター10、発毛剤のリアップなどが該当)。
「第2類医薬品」は副作用や飲み合わせなどのリスクから、注意を要する薬ですが、情報提供は努力義務とされています。主要な風邪薬や解熱鎮痛剤が分類されていますが、中には薬物依存を引き起こすものもあるので、第2類医薬品の中でも習慣性があり、注意が必要なものは「指定第2類医薬品」として指定されています(風邪薬のバブロンゴールド、咳止めのエスエスブロン錠、鎮静剤のウットなど)。「指定第2類医薬品」は販売制限があったり、情報提供が確保されるケースがありますが、努力義務には変わりありません。近年、市販薬の薬物乱用が問題となっており、販売規制がなされることが多いカテゴリーです。
「第3類医薬品」はリスクの程度が比較的低く、情報提供も希望しなければ特にされません(法的義務がない)。ビタミン剤や整腸剤、消化薬が該当します。実は法律的には、市販薬の分類で販売位置が指定されており、レジの近くは「第1類医薬品」などの注意を要する薬が多く、レジから離れると「第3類医薬品」や化粧品、サプリメント、洗剤などが配置されるようになっています。
薬局で「ジェネリック医薬品をご希望しますか?」と聞かれたことはありませんか?
大半の人にとっては「なんだかよくわからないけど薬代が安くなる」というぼんやりしたイメージがあるかもしれません。
まず何が「ジェネリック」なのかというと、薬の名前です。薬の名前には二種類あり、「一般名」と「商品(ブランド)名」があります。たとえば有名な解熱鎮痛薬である「ロキソニン」は「商品名」ですが、「一般名」は成分の名前そのままの「ロキソプロフェンナトリウム」です。
「一般名」は、英語で「generic name」と呼ばれ、国際的には薬を処方するときに商品名(ロキソニンなど)ではなく、一般名(ロキソプロフェンナトリウムなど)で書くことに由来し、「ジェネリック」と呼ばれます。
また、特許が切れた後に発売できる(=後発)ということで、後発医薬品ともいいます。少し前の世代だと、特許が切れた後にゾロゾロ出てくるということで「ゾロ」と呼ばれていましたが、死語になりつつあります。
なぜゾロゾロ出てくるかというと、新薬は4つの特許によって守られており、新規化合物そのものに付与される「物質特許」、化合物の製造方法に付与される「製法特許」、添加する物質に特徴があるときに付与される「製剤特許」、化合物の新しい用途について付与される「用途特許」が存在します9。
特許が有効な場合に独占的に販売できる医薬品が、先発医薬品(=新薬)です。しかし、特許は有効期限がありますので、期限が切れた場合は公開されている特許を元に同じ物を誰でも作ることができるようになります。それがジェネリック医薬品です。
ただし、誰でも作って販売できるというわけではなく、ジェネリック医薬品は「生物学的同等性試験」と「溶出試験」という国が定める試験で問題ないことを確認して、販売が承認されます。新薬に比べると開発コストがかからないので、安価に供給されますが、品質に関しては、先発品と同様に、国が定める基準で守られています。
用途特許や製剤特許の関係で、先発品とジェネリック医薬品に違いがあることもありますが、よほど特殊な治療でなければ、ジェネリック医薬品は薬学的に同一の治療効果をもたらすことを国が保証しているので、こだわりがなければジェネリック医薬品で必要十分です10。とはいえ、国内では、患者さんが後発医薬品を選択できるようになっているため、自由に決めていただいて構いません。
それでも安心感が欲しかったり、こだわりがある方は、オーソライズド・ジェネリックも検討しましょう。オーソライズド・ジェネリック(AG)とは、新薬(先発医薬品)メーカーからレシピを得て製造した、原薬、添加物および製法等が新薬と同一のジェネリック医薬品だったり、特許使用の許可を得て、優先的に先行して販売できるジェネリック医薬品のことをさします。英語で「Authorized Generic」と書きます。略して「AG(エージー)」と呼ばれています。
ジェネリック医薬品は複数のメーカーが同一成分を作っていますが、同一原薬、添加物、製法で作られているわけではないので、厳密にはまったく同一の医薬品ではありませんが、オーソライズド・ジェネリックの場合はほぼ同一とみなしてよいです。というのも、オーソライズド・ジェネリックと先発品は、法律で定められている医薬品の説明書(添付文書)と同じデータを使っていることがほとんどだからです(データを取り直しているAGもあります)。
通常、ジェネリック医薬品は新しく他のメーカーが開発するとき、先述の国が定める溶出率と生物学的同等性試験をクリアしていますが、そのときに使用したデータと、先発品がもつデータは同様のものではありません。もちろん、まったく同一がベストというわけではなく、製剤加工によって、他のメーカーが作った後発品のほうが患者にとって服用しやすく、治療継続しやすいというパターンもあります(たとえば、クラリスロマイシンDS「タカタ」は強烈な苦味をもつクラリスロマイシンに、こどもが飲みやすいよう苦味をマスキングする技術が使われています)。
オーソライズド・ジェネリックも、通常の後発医薬品も、先発品も同じ成分で、溶出率も生物学的同等性も国が保証しているため、医療費削減の観点からオーソライズド・ジェネリックや後発品を推奨されています。
余談ですが、本当にオーソライズド・ジェネリックと先発品は同じデータで、他のメーカーは違うデータを使っているのかどうかをご紹介したいと思います。
たとえば、コレステロールを下げるお薬として有名なクレストール(一般名ロスバスタチン)は、オーソライズド・ジェネリックが存在します。第一三共エスファからロスバスタチン錠「DSEP」として販売されており、他にも多くの後発品メーカーがロスバスタチンを製造しています。
ロスバスタチン錠「DSEP」のインタビューフォーム11を見てみると、次のように記載されています。
ロスバスタチン錠 2.5mg「DSEP」、ロスバスタチン錠 5mg「DSEP」、ロスバスタチンOD錠 2.5mg「DSEP」及びロスバスタチンOD錠 5mg「DSEP」は、「発売 塩野義製薬株式会社、製造販売元 アストラゼネカ株式会社」とする、クレストール®錠 2.5mg、クレストール®錠 5mg、クレストール®OD錠 2.5mg及びクレストール®OD錠 5mgと原薬、添加物及び製造方法・製造場所が、それぞれ同一のオーソライズド・ジェネリックです。
このメーカーについては、製造場所まで同一のジェネリック医薬品であることが確認できます。また、添付文書12を確認すると、クレストールとロスバスタチン錠「DSEP」の添付文書は書式が若干違うだけで、データ自体は寸分違わず同一です。多くの試験をして、データが同一ということは、中身が同じじゃないと説明できません。中身が科学的に同じということです。
他の後発品メーカーの添付文書は、国の定めるガイドライン13に基づき、標準製剤と溶出挙動が等しく、生物学的に同等とみなされたデータが載っています。
さらに余談なのですが、後発品メーカーが共同で試験している場合もあり、後発品メーカー同士でデータが同一ということもあります。後発品製造工場がOEMで供給していることもあるからです。同一の工場で品質基準を満たさないと、製造元が一緒なので、複数の銘柄の後発品が一度に自主回収になることもあります。
なお、オーソライズド・ジェネリックにも実はランク分けがあり、AG1(レシピ、原薬、製造技術、工場がすべて同一)、AG2(レシピ、原薬が同一)、AG3(レシピのみ同一)の3つがあります。AG1はOEMしているものを刻印だけ変えて出しているので、完全に同一です。薬剤師でもオーソライズド・ジェネリックの細かいランク分けまでパッと出てこないくらい細かいネタではありますが…。
先発医薬品には自社の商品名が付いていることがほとんどで、この医薬品がどういうものかをアピールできるように名前がつけられています。逆に、後発医薬品は医薬品の成分+薬の形+用量+会社の名前で構成されていることがほとんどです。
ここでは、先発医薬品の名称由来についてご紹介します。たいていは成分と自社の名前を組み合わせたり、作用機序に由来するものだったりと、至極まっとうなものですが、変わり種として、フィーリングや語感で付けられた名前もあります。
成分名から命名された薬
・ゼチーア錠(コレステロールの医薬品):一般名エゼチミブ(Ezetimibe)から命名。
・アジルバ錠(血圧の医薬品):一般名アジルサルタン(Azilsartan )はthe most valuable ARB(血圧を下げる薬)ということで命名。令和2年7月現在では一番血圧を下げるARBではある。
製薬会社の屋号が入っている系
・タケキャブ錠(胃薬):武田薬品のP-CAB(Potassium-Competitive Acid Blocker、胃酸分泌を阻害するもの)が由来。武田薬品は他にもタケプロンやタケルダといった名前の医薬品が……。
・メトグルコ錠(糖尿病の医薬品):一般名の「Metformin:メトホルミン」+導入先であるMerck Santé社(フランス)の販売名「Glucophage:グルコファージ」から命名。
フィーリング系
・ジャディアンス錠(糖尿病の医薬品):Ja(ポジティブ、ドイツ語の”Yes”)とRadiance(輝き)から2型糖尿病の患者さんに未来へのポジティブな輝きを与える薬剤名として命名。
・アーチスト錠(狭心症の医薬品):Artistには芸術家という意味のほかに、その道の名人・達人という意味もあり、高血圧症と狭心症を創造的かつ個性的に治療するという意味から、この名がつけられた。
成分名は系統ごとに命名法が厳格に決められているので、法則性がつかみやすいです。あまり業務で触らない薬の場合、商品名でわからないときに成分名を調べると、どのような系統がわかることが多いです。系統がダブっていないかどうかは、成分名だけでもチェックできることがあります。