本書について
第1章 はじめに
第2章 Wordの基本
第3章 下準備
第4章 文書デザイン
第5章 執筆
第6章 相互参照
第7章 数式
第8章 相互参照の改善
第9章 高度な検索と置換
第10章 目次,図表目次の作成
第11章 ページ番号,ヘッダーおよびフッター
第12章 チュートリアル:学会講演論文テンプレートの改善
第13章 Wordをさらに使いこなすために
あとがき
著者紹介
本書では,著者らがWordを用いて技術文書を作成しながら学んだ知識をまとめている.特に,WordよりもTeXに習熟した著者らが,WordでもTeXのように図表や数式番号,文献の引用をしたいと試行錯誤したその成果がまとめられている.本書では,まずWordを使う上で知っておくべき基本的な知識について述べる.想定される読者の多くは,Wordに関する誤解が解けることだろう.その後,文書を段階的に構成していきながら,Wordの機能について説明している.文書の新規作成から完成まで順序よく読めばよいように構成しているが,説明の多い章も存在するため,適宜飛ばしながら読み進めていただきたい.一通りWordの機能を説明した後,Wordの相互参照機能の改善方法を提示し,TeXのような引用を実現している.ここが本書の一つ目の核であり,ここで導入する機能によって,技術文書執筆におけるWordの使い勝手が著しく改善できる.Wordついてそれなりに知識のある読者は,当該の章(第8章)のみを読んでいただければよい.本書の終盤では,本書の二つ目の核として,実際の学会の講演原稿用Wordファイルをチュートリアル形式で修正・改善している.
本書は,理工学系の技術に関する文書・書類(技術書,卒業論文,修士論文,博士論文,ジャーナル論文,学会講演原稿,実験レポートなど)を書く立場にあり,Wordを学んだことがなく,なんとなくWordを使えるものの,もっと執筆効率を改善したいと考えている学生や技術者を想定している.若干であるが本文中でHTMLとの対比を行っているので,HTMLついて少しでも知っていると,詰まることなく読み進められるだろう.ただし,そこまで重要な意味を持たないので,知らなければ読み飛ばしてもらってかまわない.Wordの操作を一通りこなせることを前提としているが,Wordを系統的に学習した読者にとっては退屈な内容であることはお断りしておかなければならない.
本書では,Wordの命名に従った表記を用いる.図や表にラベル,番号およびキャプション(説明文)を付けることを“図表番号を挿入する”といい,本文中で図表番号を引用することを“図表番号を参照する”という.ただし,文献を引用するために本文中に文献番号を書くことを,“文献番号を挿入する”という.
リボンにある各項目(タブ)やタブにあるボタン,ボタンをクリックすると現れるメニュー,ダイアログボックス,ウィンドウおよびそれらに設けられた各種設定項目を表記する場合はゴシック体を用いる.スタイルの名称についてもゴシック体を用いるが,○○スタイルと記述するので区別は可能だろう.また,Word 2007から追加された数式入力環境については,どうやら数式が正式名称であるようなので,本文中で言及する場合は数式コンテンツコントロールを挿入するボタンと区別せずに数式と書く.
本書の中で,著者ら自身の事情・状況について言及する場合には,主語を“著者ら”と書き,想定される読者に一般的と思われる事情・状況について言及する場合には,理工学系の文脈に従って主語を“我々”と書く.
本書は,著者らの知見に基づく情報の公開のみを目的としている.そのため,本書に記載された内容およびその正誤によって生じた結果について,著者らはいかなる責任も負わない.
本書に掲載している内容については,著者らの環境でのみ動作の確認を行っており,いかなる環境においても再現できることを保証するものではない.
Windows 7 SP1 64bit 日本語版
Microsoft Word 2010
本書に記載されている会社名,製品名などは,一般に各社の登録商標または商標,商品名である.会社名や製品名について,本文中では©,®,™マークなどは表示していない.
本章では,著者らの状況や経験を読者と共有するとともに,その経験から本書の執筆に至った背景を述べる.
1年ほど前,著者らは親しい人達に向けてFortranプログラミングの手引書を制作した.執筆に際して最も難航したことは,内容の検討でもサンプルプログラムの作成でもなく,TeXとWordのどちらで書くかを決断することであった.なんとなくしか使えないWordよりはTeXの方が長文を書いても構造が破綻しなさそうだし,図表や数式,文献の引用についてもTeXの方が容易であるように思われた.エディタに依存するが,TeXはテキストベースなので軽く,Wordのように突然の強制終了や謎のメモリ不足によってファイルが保存できないという事態は起こらない.一方で書式や体裁にも少しは気を遣いたいと考えたときに,TeXでは設定がややこしそうだと感じられた.それ以外にも,プログラムソースを掲載したとき,その中で式の引用やソースの強調を行うのは非常に手強そうだった.また,長文を執筆しながらTeX命令を入れるという作業が必要なことや,処理系を通さないと仕上がりを確認できないのも不満だった.結局,「Wordをなんとなくしか使えないなら,一度本を読んで学習すればよい.本も書けてWordも使えるようになるなら,それは素晴らしいことではないか」との考えの下で,Wordで執筆することにした.
書籍1を1冊買って読み進めていくと,著者らがWordを知らず,いかに適当に使っていたのかを痛感することになった.それと同時に,Wordの正しい使い方に沿うと,使い勝手が各段に向上することが分かった.しかしながら,図表番号の参照や文献の引用はまだマシにしても,数式に番号を付与して引用する手軽な手段が用意されていないことに著しい不満を感じていた.何とか使い勝手を改善できないかと試行錯誤しているうちに,ある一つの機能にたどり着いた.後の章で紹介するが,この機能は,TeXユーザとしてWordの相互参照に感じていた不満を解決する銀の弾丸であった.その後色々と調べてみたが,著者らが利用していた機能はあまり有名ではなく,またそれを相互参照に応用した情報は見当たらなかった.また,Wordの機能に関する知識が増えると,業務中に触れるWord文書が,何の機能を使ってどのように作られているかが気になるようになった.現在は,まず渡されたWordファイルを修正してから内容を記述し,同僚にも修正したファイルの使用を勧めている.
このような背景から,著者らが蓄積した知見を公開することでWordを効率的に利用する人が増え,Wordの不満が少しでも改善され,その結果として業務が楽になればと思い立ち,本書の執筆に至った.
本章では,執筆の過程で著者らなりに理解したWordの基本について述べる.Wordにおける段落の概念を理解し,スタイルをいかに上手く取り扱うかがWordを使いこなすキモである.
我々はWordについて一体どのくらい詳しく知っているのだろうか?Microsoft社の商品の一つで,文書作成を主に行うソフトウェアである.WYSIWYG1エディタであり,文書のフォント等の体裁を画面で見ながら編集し,画面出力と同じ結果を印刷出力として得られる.Microsoft Officeを構成するソフトウェア群の一つであり,Excelと併せて主力商品であると思われる.また,業務を行う上で標準的な文書作成ソフトウェアであり,この世の中で最も多くの時間を奪っているソフトウェアの一つではないかと思わせるほど,我々を苦しめる.
著者は,WordがWYSIWYGエディタであるとは考えていない.Wordを効率的に利用するには,HTMLと同じように内容とデザインに分けて考える必要があると認識している.つまり,Wordはデキの悪いHTMLエディタのようなものである.HTMLでは,内容を記述する際に構造をHTMLタグによって明記し,そのタグのデザインをスタイルシート(CSS)が担当する.スタイルシートを切り替えることで,構造を一切変更することなくデザインを変更できる.WordがHTMLエディタであると主張するのであれば,Wordは何で構造を明記し,何でデザインを決めるのであろうか?
答えは,段落とスタイルである.そして,それら以外にもWordと上手につきあうために種々の編集記号と特殊文字を使いこなすことになる.我々が従来やっていた行為,つまり,本文をベタ書きしながら都度フォントやそのサイズを変更するのは,Wordが想定している使い方ではない.不便な使い方をしながら文句を言うのはお門違いというものだ.