はじめに
第1章 どうなのRPA?
第2章 いろいろ準備だRPA
第3章 やってみようRPA
第4章 実践RPA
第5章 自動化だRPA
第6章 つなげようRPA
第7章 これからRPA
さいごに
2016年頃からRPAという言葉がIT関係のメディアに出はじめて4年近く経ち、その効果が大々的に持ち上げられるようになってきました。導入を進めている企業・団体も増えてきているのではないかと思います。
もしくは導入を終えて運用・保守に入ったRPAロボットを抱え、かけたコストほど効果が出なかったと考えている方もいるかもしれません。また、流行り言葉としてRPAが気になりつつも様々な事情で導入・検証ができない方々もいらっしゃることと思います。
本書では「いまさらRPA」のタイトルの通り、今から後追いでRPAを導入・検討するためのひとつの情報として解説しています。まずはRPAを使ってもらおうという観点で、無償で利用できるソフト・ツール群でRPAロボットを組み立てる方法を中心に記載しています。
また、本書の最後にはRPAロボットを組み立てる中で「システムを『つなぐ』システム」をつくる考え方についてページを割いています。自分や関係者の仕事をシンプルにとりまとめ、それをコンピューターに伝えていく流れを記載してみました。
本書はタイトルこそ「RPA」ですが、RPAは単なるバズワードで終わらせるには勿体ない題材と考えています。
RPAロボットを作成し、動かすために考えることは、コンピューターに仕事をさせる本質により近づくのではないかと考えています。特にエンジニアでない「ユーザー」が、仕事の中でコンピューターとつき合うやり方として流行り廃りなく通用できるものとなるでしょう。
本書がコンピューターユーザーがコンピューターに「振り回される」のでなく、「乗りこなす」ようになる手助けができるものであれば幸いです。
本書は、主に「コストをかけずに業務におけるパソコン作業の自動化を導入したい方」をメインターゲットにしています。特に企業規模としては中小規模で業務量が多くなってきたと感じてきた企業・個人事業主がそれにあたるのではないかと思います。
また、ソフトのインストールやある程度のプログラミングを行いますので、コンピューター操作に抵抗のない方が望ましいです。
まず、コンピューターソフトウェアとしてのRPAについて軽く触れた後で、ツール群を導入し、ある程度のシナリオに沿ったロボットを作成していきます。
各章は以下のような流れで進めていきます。
・どうなのRPA?
─RPAについての簡単な解説
・いろいろ準備だRPA
─本書で使用するツール・ソフトの導入
・やってみようRPA
─手始めに簡単なロボットの作成
・実践RPA
─業務に即したシナリオでのロボット作成
・これからRPA
─RPAを進めるにあたって持っておきたい考え方
概ね「事務仕事をするためのPC」であれば揃っている環境を前提として進めていきます。ツール類を手動でインストールするので、お手元のPCでインストール操作が可能なことと、ファイルの拡張子を表示する設定になっていることを確認しておいてください。
・WindowsPC:筆者の手元の環境がWindows10 Version 1809のためそちらを基準としますが、恐らくはWindows7以降であれば動作すると思われます。
・Microsoft Office:主にデータ列挙・保存用としてMicrosoft Excelを使用します。2008以降のExcelが導入されている前提とします。
・Google Chrome:WebブラウザとしてGoogle Chromeを使用します。自動で更新されるため、最新版を使用する前提とします。IE派、他ブラウザ派の方はすいません。
サポートサイトを以下URLで公開しています。公開中であればこちらのサイトにてサンプルプログラムの公開・補足事項の記載を行っています。サンプルに用いられるデータも含めて掲載されているので、あらかじめダウンロードしておくことをお勧めします。
https://良能技研.jp/rpa_irdtechbooks/
ご意見次第で増補改訂なども進められればと考えていますので、感想などございましたらこちらの問い合わせフォームへ書込みをお願いします。
本書に記載されている会社名、製品名などは、一般に各社・団体・個人の登録商標または商標、商品名等です。会社名、製品名については、本文中では©、®、™マークなどは表示していません。
本書に記載された内容は、情報の提供のみを目的としています。したがって、本書を用いた開発、製作、運用は、必ずご自身の責任と判断によって行ってください。これらの情報による開発、製作、運用の結果について、著者はいかなる責任も負いません。
本章では色々取り上げられているRPAに「いまさら」触れる上で「現状のRPAの立ち位置」を解説していきます。私見が大いに含まれますが、ある程度RPAや類似品に触れた経験がある方なら似たような感想を抱くものと思われます。
RPAソフトウェアと、それによって作られる「ロボット」もしくは「デジタル労働者(Digital Labor)」は以下のような特徴を持っていると言われています。
・人間の操作を模倣した「デジタルロボット」を作成することができる
・開発経験がなくてもロボットを作成することができる
・AI機能を組み込んでいるため人間に近い作業ができる
・自動で動くため、休憩知らず
・人間よりコストがかからない
これらはそれぞれ部分的には正しいと言えますが、RPAを推奨するメディアやRPAソフトを売り出しているメーカーが触れていない部分について追記していきます。
RPAの大きな特徴である「自動操作」ですが、実は新しい技術ではなく以前からあるものです。
1970年頃、コンピューター(オフコン)が実務で広まった背景が、まさに定型業務の自動化・高速化にありました。本書でも自動化ツールとして使う「AutoIT」や類似ソフトの「UWSC」は、1999年に最初のバージョンが登場したと言われています。
このように自動化の技術そのものは以前からありました。しかし大々的にシステムを導入したという雰囲気がなく、効果が地味なため日陰になっていた面が大きいです。
RPAソフトの導入を検討された方はご存知かもしれませんが、RPAソフトはライセンス費が高く、メジャーなものだと年間100万円程度かかるものもあるようです。
大規模に導入を行わないとライセンス費用の元がとれず、またロボット作成のスキル習得・実作成にも人件費がかかってしまいます。他の仕事をさせれば売上があがる社員に、ロボット作成の研修を1週間かけてやる、という判断をできる企業はまだ少なそうです。要件が固まっていて開発内容が明確であれば、マトモな開発会社に依頼した方が開発に手をかけなくてもいいだけ実は安上がり、なんていう現象が発生する可能性もあります。ただし、マトモな開発会社の開発者を1名1ヶ月確保するのに100万円ほどと言われています。そもそも依頼先の企業が選定できない問題や、小規模開発では開発者のスケジュールが確保できないなどの問題もあるのですが……。
AIとRPAの組み合わせ事例でよくみられるものとして「文字・画像認識」「文章などの自動生成」「何らかのメッセージに対する自動応答」などがあります。これらの機能は大量のデータをあらかじめ読み込ませ、それらの内容から類推することにより実現している部分が大きいです。
AIの情報を類推させる機能を働かせるためには、大量の「元になるデータ」が必要になってきます。つまり、一定のフォーマットにそったデータを大量に準備する必要があります。以前から一定のフォーマットに従ったデータを大量に積み上げている企業はそれほど多くはないでしょう。
となると「データを整形・作成」もしくは「データを購入」するところからスタートし、データ作成の人権費やデータ購入費などの費用が莫大にかかってしまいます。先進的なツールがすぐに安価で利用できるという望みは、かなり薄いと考えた方がいいでしょう。
ここまでRPAについてのネガティブな話が続いてきましたが、それでもRPAがバズワードになる理由はあると考えています。「Excelで手動管理されているデータは意外に多い」ことと、「RPAはビジュアルに訴えかけられる」こと、それがRPAをすごいと思わせ、決裁者の承認を呼び込むのです。
現状として、日本国内ではITの必要性が訴えられている割にシステム投資が伸び悩み、既存システムの定期的な保守・メンテナンスがやっとの状態が続いています。
いわゆるIT投資額の日米比較のグラフを「平成30年版 情報通信白書のポイント(http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd113110.html)」から引用します。
IT投資額が少ないため、新規事業のデータや既存事業のイレギュラー処理を行ったデータを管理するためにシステム導入・改修とはならずExcelで頑張って管理しよう、となるケースは意外に多いです。そこで、RPAは人間がやっていたExcel作業を自動化する事ができる、と動作している様子を見せてアピールします。他の選択肢と比較した有効性はともかく「ウチにぴったりだ!」と感じる人達は多いのではないかと思われます。
RPAはPCの操作を記録・自動化できるため、人間がパソコンを触って処理しているかのような動きをそのまま再生します。しかも、ツールによっては処理を示すいくつかの箱が線で繋がった画面上で「今どの処理が動いているか」という表示をさせることもできます。人間、自分と同じ動きをするビジュアルには弱いので、「画面に出ずに裏で何か動作している自動化ツール」よりもRPAを選んでしまいがちなのです。
パソコンで、または手作業で業務を進めていて、時間がかかっているという「現状の課題感」がある。そして自分に近いデジタルロボットが働いているという「人間の認知バイアス」で分かりやすくなっている。そのようなアピールしやすいツールが揃い、「RPA」という言葉としてパッケージされている。
ここまでお膳立てされているのであれば投資判断を仰ぐのもそれほど難しくないものと思われます。それでも渋るようであれば本書を参考にロボットを作成し、決裁者の方に提案するのはいかがでしょうか。
現場としては結局手段はどうでもよく、なんとか自分以外の人間に仕事を手伝ってもらう必要があるわけです。それが文句を言わないパソコンであるならば、心理的な負担は比較的少ないことでしょう。
承認を得やすく次の手を打つリソースを作り出すためのRPA、という観点で導入に向けて進めていけばいいのではないでしょうか。