「研修や書籍購入補助に予算を使っているが、効果を説明できない」「人的資本の開示で、人材育成の指標を何にすればよいか分からない」。人事・育成担当者からよく聞かれる悩みです。
社員の学習は、研修、書籍、eラーニング、資格取得など、さまざまな場所で行われています。この記事では、学習状況を測るための指標の考え方と、データの集め方、社内の改善や開示への活かし方を整理します。
学習データが注目されている理由は、大きく2つあります。人的資本の開示が広がっていることと、育成施策の効果を社内で説明する必要が高まっていることです。
2023年3月期から、上場企業などが提出する有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の記載欄が設けられました。その中で、人材の多様性を含む「人材育成方針」と「社内環境整備方針」、それらに関する指標の内容と目標・実績を記載することが求められています(金融庁)。どの指標を使うかは各社が判断します。
また、内閣官房の非財務情報可視化研究会が2022年8月に公表した「人的資本可視化指針」では、開示事項の分野のひとつに「育成」が挙げられ、研修時間、研修費用、研修参加率などの指標が例示されています。
開示義務のない企業でも、研修や書籍購入補助の予算を継続するには、「どれだけ使われ、何につながったか」を示す必要があります。学習データは、開示のためだけでなく、社内で施策を見直すための材料にもなります。
学習の指標は、「どれだけ投資したか」「どれだけ学んだか」「何が身についたか」の3つの層に分けると整理しやすくなります。

層 | 測るもの | 指標の例 | 集めやすさ |
|---|---|---|---|
インプット | 会社がどれだけ投資したか | 研修費用、従業員1人あたり研修費、書籍購入費 | 高い(経理データから集計できる) |
プロセス | 社員がどれだけ学んだか | 研修時間、研修参加率、読書時間・読了数、学習に参加した社員の割合 | 中(仕組みがあれば自動で集まる) |
アウトプット | 何が身についたか | 資格取得数、スキル評価の変化、研修後アンケート、理解度テスト | 低い(設計と手間が必要) |
人的資本可視化指針で例示されている研修時間や研修費用は、主にインプットとプロセスの層にあたります。まずはこの2つの層を確実に集め、アウトプットは重点施策に絞って測るのが現実的です。
全社平均の研修時間が同じでも、一部の社員だけが学んでいる場合と、幅広い社員が学んでいる場合では意味が大きく違います。部署別・職種別・年代別の分布や、「年間で一度も学習していない社員の割合」を見ると、打つべき施策が具体的になります。
社員の学習データは、社内のいくつもの場所に散らばっています。まずは「どこにどんなデータがあるか」を棚卸しすることから始めます。
データ源 | 取れるデータ | よくある課題 | 集め方のコツ |
|---|---|---|---|
集合研修・外部セミナー | 参加者、時間、費用、アンケート | 部署ごとに申込みが分かれ、全社の集計ができない | 申込み・報告の窓口と記録項目を統一する |
eラーニング | 受講状況、修了率、テスト結果 | サービスごとに管理画面が分かれる | 定期的にCSVで書き出して集約する |
書籍 | 購入・貸出の記録、読書時間 | 立替精算や紙の社内図書では「読んだか」が分からない | 貸出や閲覧の記録が残る仕組みにする |
社内勉強会・読書会 | 開催回数、参加者 | 自主的な活動のため記録が残らない | 開催報告の簡単なフォームを用意する |
資格取得 | 取得者数、取得資格 | 本人が報告しないと把握できない | 資格手当や受験費補助と紐づけて申請を促す |
社内資料(マニュアル・規程) | 閲覧・読了状況 | 配布したきりで読まれたか分からない | 閲覧履歴が残る場所で共有する |
ポイントは、社員に入力をお願いしなくても、学んだ記録が自動で残る仕組みを増やすことです。自己申告だけに頼ると、入力漏れが積み重なり、データの信頼性が下がります。
また、部署・職種などの社員情報と紐づけられるように、どのデータ源でも社員番号やメールアドレスなど共通のキーで記録しておくと、後の集計が楽になります。
学習データは、集めて報告するだけでは価値が半分です。「集める → 見える化する → 施策を変える → 社内外に説明する」の流れで使うと、投資の質が上がります。

開示する場合は、「どんな人材を育てたいか」という人材育成方針と、指標とのつながりを説明できることが大切です。たとえば「デジタル人材の育成」を方針に掲げるなら、全社の研修時間だけでなく、IT・AI分野の学習に参加した社員の割合など、方針に対応した指標を示すと説得力が増します。
最初から多くの指標を追うと、集計だけで手一杯になります。まずは「研修時間」「学習に参加した社員の割合」など、3つ程度から始め、定点観測できる状態を作ることを優先します。
「研修時間に書籍や自主的な勉強会を含めるか」「参加率の分母は正社員か全従業員か」など、定義が曖昧だと年ごとの比較ができなくなります。開示する場合は、定義もあわせて示すと信頼性が高まります。
学習データは個人の行動の記録でもあります。何のために集め、誰が見られるのかを社員に伝えておきましょう。「読んでいない人を責める」ためではなく、「学びやすい環境を作る」ために使うことが大切です。
研修時間や読了数は、多ければよいというものではありません。量のデータは、施策が届いているかを確かめるためのものとして使い、成果は業務上の変化や本人の声とあわせて判断しましょう。
BOOK TECHの法人向けサービス「BOOK TECH biz」では、書籍と社内資料の学習データが、社員の入力なしで自動的に記録されます。
分析の切り口 | 確認できること |
|---|---|
メンバー別 | 閲覧時間、読書の進捗、読書履歴 |
書籍別 | 利用の推移、貸出・予約の状況 |
組織別 | 部署・職種ごとの利用率、貸出回数、読書時間、資料の読了率(月ごとの推移も) |
分野別 | 「誰が・どの分野を・どれだけ学んだか」を示すスキルマップ |
社内資料 | 資料ごとの未読者リスト(未読・閲覧のみ・読了済み)、目次ごとの読了・理解チェック |
組織別分析やスキルマップはCSVで出力できるため、研修やeラーニングのデータと合わせて集計することもできます。分析権限を付与すれば、現場のマネージャーが自部署の状況を確認する運用も可能です(組織別分析・スキルマップはベーシックプラン)。
あります。育成施策の予算を経営に説明したり、採用活動で「学べる会社」であることを具体的に伝えたりするときに役立ちます。
決まったルールはなく、各社が定義します。含める場合は、「研修時間(集合研修・eラーニング・業務関連書籍の読書を含む)」のように内訳を明記し、毎年同じ定義で集計することが大切です。
集める目的と、個人別のデータを見られる人の範囲を明確に伝えましょう。全社や部署の集計として使うこと、評価に直結させないことなど、運用のルールを先に決めておくと安心感が生まれます。
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